マレーシア出身の若者からみた、西公園の魅力とはー

      • Interview

      2025/10/22

      2025年、仙台市青葉区の西公園は150周年を迎えた。この節目の年に、私たちは改めて問いたい。イベントの時に、毎日の通り道として、休日の散歩コースとして、何気なく訪れているこの西公園にどんな魅力があるのだろうか。 

      そのヒントをくれたのは、マレーシア・イポー出身のSim Jia Hui(沈嘉慧)氏(以下、Sim氏)だ。東北大学で博士課程に在籍する彼女は、来日してすぐに西公園と出会い、今では週末の夕方に一人で散歩に訪れるほど、この場所を気に入っている。Sim氏の目を通して見えてくる西公園の姿は、新たな西公園の魅力を教えてくれる。 

      Sim Jia Hui(沈嘉慧)氏


      研究のため、仙台に—

      「これが日本だ—」。2023年10月、初めて仙台市に降り立った時、Sim氏はそう感じたという。それまでアニメやマンガを通じて日本のイメージを持っていた彼女だったが、実際に足を踏み入れた仙台市は、想像以上に"日本らしさ"に溢れていた。街の雰囲気、そして何より人々の優しさが、彼女の抱くイメージそのものだった。「本当の日本だと思いました」と、当時の感動を振り返る。 マレーシアの大学を卒業後、インターネットで『日本のトップ大学』を調べた彼女は、そこで1番だと書かれていた東北大学を選んだ。修士課程を経て、現在は博士課程に進学し、数学の研究に励む日々を送っている。 

      Sim氏の出身地、マレーシアは東南アジアの国で、イポーはその、第3の都市である。首都クアラルンプールから北に約200キロの場所に位置する。仙台市に来てから「仙台の雰囲気は本当にイポーと近いと感じていた」と語る彼女だが、日本との違いに驚くこともあった。 例えば料理だ。

      Sim氏:「日本の食べ物は辛くないと感じます。インド料理店に行って一番辛いオプションを頼んでも辛くないですね」

      マレーシア料理の多くは香辛料をふんだんに使い、スパイシーな味付けが特徴だ。 そして何より、2年前に初めて見た雪には感動したという。「雪だ」と思わず声を上げた瞬間を、今でも鮮明に覚えているという。常夏の国で育った彼女にとって、雪が降り積もる仙台市の冬は、とても新鮮だった。四季の変化は新鮮な驚きの連続で、それが彼女の仙台生活をより豊かなものにしている。 

      現在はラボでの研究の合間に、所属するフォークダンスサークルで踊ったり、友達と遊んだりと、仙台市での生活を満喫している。以前は青葉山の寮に住んでいたが、引っ越しをきっかけに西公園との距離はぐっと縮まった。そんな彼女の日常に、西公園は自然と溶け込んでいった—。 


       

      暮らしの中に溶け込んだ西公園 

       

      Sim氏が初めて西公園を訪れたのは、来日した翌日のことだった。仙台市に到着し、翌日には早速、東北大学のオリエンテーションで仙台を巡るツアーがあった。その時、バスの窓から西公園が見えた。中には入らず、ただ通り過ぎただけだったが、大きかったこともあり「学校のグラウンドかな」と思ったという。広大な緑地が広がる光景は、来日したばかりの彼女の目に強烈に焼き付いた。 その後、初めて西公園を訪れる。そこで彼女が一番惹かれたのは、公園内にある黒い電車、SL(蒸気機関車)であり、急に公園で電車があるという意外性に驚いたという。その驚きは、2年経った今でも変わらない。家族が来日した時も、この電車の前で写真を撮った。公園に突如現れる巨大な黒い蒸気機関車。それは、西公園が持つユニークな魅力の一つだ。 青葉山の寮から大手町に引っ越してからは、西公園との関係が大きく変わった。寮に住んでいた頃は、花見のシーズンくらいしか訪れることはなかった。距離があり、何より日常的に公園に行くという習慣がなかった。しかし引っ越し後、西公園は身近になり、彼女の生活圏内に入り込んできた。週末の夕方、気が向けば一人でふらりと散歩に出かけるようになったのだ。 

      Sim氏:「一人だったら散歩をしてストレス発散します。自然があって、本当にいい雰囲気だと思います。リラックスできますね」

      研究の合間、論文に行き詰まった時や気分転換が必要な時に彼女は迷わず西公園に足を向ける。都市の喧騒からほんの少し離れるだけで心が落ち着く、それが西公園の持つ不思議な力だ。 一人で訪れる時と友達と来る時では、西公園の表情も変わる。友達と一緒なら花見や祭り、イベントだ。インタビューの2週間前に西公園で行われていた餃子祭りでは、日本各地から集まった有名餃子店が軒を連ねていた。Sim氏は、その時ちょうど日本に来ていた家族と一緒に行き、約1時間ほど京都の餃子や福島の餃子など、様々な餃子の食べ比べを楽しんだ。 また、笑顔で話してくれたことは所属するフォークダンスサークル仲間と公園で踊ることだ。月に3回ほど夜にみんなで集まって踊るのだという。

      Sim氏:「西公園は夜でも結構、安全感がありました」

      その言葉からは、この公園が持つ治安の良さ、安心感が伝わってくる。街の中にありながら夜でも安全な西公園だからこそできる楽しみ方である。一人で静かに過ごすこともできるし、誰かと一緒に楽しむこともできる。そんな懐の深さが、西公園にはあるのだ。季節によっても、西公園の魅力は変わる。

      Sim氏:「春は桜が咲いてて一番綺麗だと思います」

      寮のルームメイトや友達、サークル仲間と花見に出かけた時の記憶は、今でも鮮やかに残っている。満開の桜の下で過ごした時間は、日本文化を肌で感じる貴重な体験だった。また、神社も好きで、御朱印集めを楽しんでいるという。「御朱印が好き」と語る彼女は、毎月限定の御朱印があることも知っている。西公園に隣接する神社への参拝も、彼女の散歩コースの一部になっている。 

       


      マレーシアの公園と日本の公園 を比較してみて

      常夏の国マレーシアでは、公園の使い方も日本とは大きく異なる。Sim氏がマレーシアに住んでいた際、高校生から大学生の頃に通っていたのは、住宅街にある“ECOPARK”という公園だった。「暑すぎてあんまり行かなかった」という彼女だが、ダイエットのために朝にジョギングをすることはあった。 マレーシアの気温は年間を通じて27度から33度程度。湿度も高く、日中の屋外での活動は体力を消耗する。そのため、昼は暑すぎて誰も使わないという。だから公園を利用するのは、涼しい朝か夕方に限られる。平日の朝は主にお年寄りが多く、週末になると家族連れが増える。放課後の時間帯には、若者の姿も見られるという。 朝のECOPARKには、お年寄りが集まって踊る運動グループの姿がある。それは、台湾や中国、マレーシアにある文化だという。ラジオ体操のようなものだが、整然とした動きではなく、もっと自由で、「めっちゃノリノリ」な雰囲気だと彼女は説明する。音楽に合わせて体を動かし、健康づくりと社交を兼ねた朝の習慣だという。 週末のECOPARKは、また違った顔を見せる。家族連れが増え、ピクニックを楽しむ人々で賑わう。芝生の上にシートを広げ、持ち寄った食べ物を囲んで過ごす。散歩やジョギングをする人もいる。そして多くの人が、ただゆっくりと時間を過ごしている。

      Sim氏: 「木が多いところ、いい雰囲気、いい環境が似ています」

      ECOPARKと西公園は、公園としての本質的な魅力においては似ていると彼女は言う。緑に囲まれ、都市の喧騒から離れた落ち着いた空間。人々が集い、リラックスし、それぞれの時間を過ごす場所。その根本的な役割は、国が違っても変わらない。 ただ、文化の違いから生まれる差異もある。朝の公園では、すれ違う人々が気軽に声を掛け合う。それに対して日本では、知らない人に挨拶することは少ない。それでも、控えめで静かな日本の公園の雰囲気も、彼女は気に入っている。 そして、彼女が特に印象的だったのは、日本では犬を連れて公園に行けることだ。犬がとても好きだという彼女にとって、これは西公園の大きな魅力の一つだ。マレーシアでは、ムスリム(イスラム教徒)の方が多く、その方々に配慮して犬の入園を禁じている場所がある。イスラム教では犬は不浄とされ、宗教的な理由から、街中の公共の公園では犬の入園が制限されている場所が多い。住宅街の小さな公園なら大丈夫な場合もあるが、西公園のような大きな公共の公園では基本的にNGだという。 そのため、西公園でたくさんの人が犬と一緒に散歩している光景は、愛犬家の彼女にとって新鮮で嬉しいものだった。


      留学生たちにとっての西公園 

      Sim氏:「仙台のメイン公園と聞きました」

      Simさんの周りの留学生の間でも、西公園の存在は大きい。特に花見のシーズンになると、留学生の友達と集まって、桜の下で過ごす。彼女も寮のルームメイトや留学生の友達と一緒に花見に出かけたことがある。

      Sim氏:「桜も綺麗だし、日本文化、お花見も経験できたので、嬉しかったです」

      その時、彼女は日本の春を全身で感じたという。満開の桜の下で過ごす時間は、日本での留学生活を象徴するような、かけがえのないひとときだった。また、Sim氏からでた「混んでました」という言葉からは、花見シーズンの西公園がいかに賑わっているかが伝わってくる。花見の写真はSNSにもアップされ、遠く離れた母国の家族や友人に、日本での生活の一コマを伝える。西公園は、仙台市で暮らす留学生たちにとって、日本文化を体験し、思い出を作る特別な場所になっている。


      150年の時を超えて―

      「西公園はどんな場所ですか?」という質問に、Sim氏は迷わず「落ち着く場所」と答えた。街の喧騒から少し離れ、木々に囲まれた静かな空間。散歩をしたり、ただぼんやりと過ごしたりする時間が、彼女にとってかけがえのないものになっている。仙台市で、研究に勤しむ生活の中で、西公園は心を休められる貴重な場所なのだ。 

      そんな西公園が、今年で開園150周年を迎えることについて、Sim氏はこう語る。

      Sim氏:「150年経っても、こんなに綺麗で凄いなと思います」

      150周年という言葉を聞いて、少し驚いた様子を見せた。西公園は、1875年に開園して以来、時代が移り変わっても、この公園は仙台の人々に愛され続けてきた。150年という長い歴史の中で、多くの人々がここで過ごし、思い出を紡いできた。時代を超えて受け継がれてきた美しさと安らぎは、これからも多くの人々を迎え入れていくことだろう。 


      「当たり前」を見つめ直すことで見えてきたもの—

      Sim氏の話を聞いて気づかされるのは、私たちが”当たり前”だと思っている西公園の魅力が、実は決して当たり前ではないということだ。 四季折々の自然の美しさ、都市の中にある自然、犬と一緒に過ごせる場所、夜でも安心して過ごせる治安の良さ―。これらは、西公園が持つ価値である。Sim氏の目を通して見ることで、私たちは改めてこの公園の素晴らしさに気づくことができる。 西公園はイベントのある時に注目されがちだが、それだけが西公園の魅力ではない。むしろ、何もない日の静けさこそが、西公園の本当の価値でもあるのかもしれない。週末の夕方に一人で散歩したり、友達と踊ったり、犬と一緒に歩いたり、通り道としてふらりと立ち寄ったり―。特別すぎず、日常に寄り添う、肩肘張らない公園。そこには誰もが気軽に訪れることができる開放感がある。日常的な使い方の中にこそ、西公園の本当の魅力がある。 

      150周年を迎えた西公園は、過去から受け継がれてきた歴史を持ち、現在は多様な人々が集う場所となり、これから未来に向けてさらに進化していくだろう。日本人だけでなく、世界中から集まった人々が、それぞれの楽しみ方で西公園を愛している。 

      Sim氏:「西公園が好きです」

      そう語るSim氏の笑顔が、そのすべてを物語っている。遠い国からやってきた一人の女性が見つけた、この街の宝物。それは、私たちの足元にずっと存在していた、かけがえのない場所なのだ。 インタビューの最後、読者に向けてSim氏は次のように語る。

      Sim氏:「リラックスしたい人、犬と散歩したい人におすすめです。皆さん、ぜひ西公園に来てください」

      インタビュー中緊張しながらも、西公園への愛情を言葉にしてくれた彼女。その素直な想いが、何より西公園の魅力を物語っている。西公園は、150年の時を経て、今日もそこにあり、きっとあなたを待っている—。 


      Text:Minami Nakamura
      Photo:Minami Nakamura/Yuki Suzuki

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