History
Interview
2025/11/12
2025年9月7日、仙台市博物館で西公園開園150周年を記念した講演会が開催された。この日、講師には仙台の歴史研究者・木村浩二氏(以下、木村氏)と、『NPO法人20世紀アーカイブ仙台』の佐藤正実氏(以下、佐藤氏)が招かれ、計200名近い参加者が集った。前半は木村氏が江戸時代からの西公園周辺の様子について、後半は佐藤氏が明治以降の西公園の変遷について語った。複数の古地図を使い、参加者への問いかけを交えた講演は、何度も笑いを誘う親しみやすい雰囲気に包まれていた。本記事では、西公園150周年記念講演会で語られた歴史に加えて、木村氏へ独自にインタビューした際に語られた想いをお届けする。

写真:木村浩二氏
西公園150周年記念講演会での木村氏の話は、西公園が開園する以前、江戸時代の片平丁の歴史の説明から始まる。片平丁は藩政期には延長2.8kmにも及ぶ長い通りで、奥州街道や大町よりも広い大規模な武家地だった。道路の幅は約11m。通常5m前後が多い中で驚くほど広い。大名クラスが多数居住し、仙台城を望む重要な位置にあった。
その他にも講演では、何種類もの絵図を使って仙台の街の変化が視覚的に示された。木村氏は参加者に問いかけながら話を進め、「ここに堀があったらどう渡りますか」「大名行列が通ったらどうしますか」と、江戸時代の暮らしを現代の実生活と結びつけるように語り続けた。木村氏はそのあと、次のような言葉を観客に送った。
木村氏:「着ているものや履物が少し違うだけで、人間は一緒。江戸時代は遠い昔の話ではなく、今のあなたの実生活と何ら変わりないことをしているのです」
木村氏のこの言葉に、会場の多くの人がうなずいていた―。
木村氏は、続けて仙台の街が大きく変化した3つのターニングポイントも示した。1つ目は、仙台城に伴う町の変動である。『城下町』の整備によって、大規模な町割りが行われた。計算された街づくりで、土地を埋めたり道を整備したりしながら、城下町の土台が築かれていった。2つ目は昭和初期である。特に昭和3年は仙台にとって重要な年だった。仙台周辺の町村を初めて合併し、宮城電鉄(現在の仙石線)が石巻まで開通。また、七夕飾りコンクールも始まり、商店街同士で競い合う形で、現在の仙台七夕に発展していった。3つ目は戦後復興である。昭和20年の空襲後、青葉通りや定禅寺通りの拡張など、近代的な街づくりが進められた。これら3つの転換点を経て、西公園周辺も大きく変化していった。

定禅寺通
写真提供:仙台市戦災復興記念館
明治8年(1875年)、桜ヶ岡公園(のちの西公園)と榴ヶ岡公園(東公園)が開園。西と東、桜ヶ丘と榴ヶ岡と対になった2つの公園は、仙台市民の憩いの場として親しまれてきたという。木村氏に続いて佐藤氏が、明治・大正・昭和と続く西公園の変遷を紹介した。昭和3年には、関東大震災・昭和恐慌という不景気の時代に、仙台では東北産業博覧会が開催された。広瀬川沿い、西公園を含む3会場で行われた大規模イベントで、川内と西公園をつなぐケーブルカー、西公園から広瀬川に向かって落ちるウォータースライダーなど、娯楽施設も充実していたことから、「商工会維持、大規模なイベントする力が仙台に備わってきたことが分かる」と説明する。明治時代にも2回博覧会が開催されており、西公園は単なる憩いの場ではなく、仙台の近代化を象徴するイベント空間でもあった。佐藤氏は公演中、次のような言葉を残した。
佐藤氏:「世の中不景気のときに、関東大震災・昭和恐慌で商工会が大博覧会を企画できる力があった。それだけ大正から昭和にかけて、仙台が発展していた証拠です」

昭和34年 東北産業博覧会(西公園~川内)
写真提供:仙台市戦災復興記念館
講演会後、木村氏にインタビューする機会を得ることができた。
木村氏:「講演会では、参加者がただ話を聞くだけではなく、参加者自身が考え、行動したくなるような内容を心がけている。また、なるべく実生活に関わり合えるような話題で関連づけてお話しします。江戸時代は遠い昔の話ではなく、同じ人間の生活だから、実は現代も同じような考えで同じようなことを行動しています。あまり遠い昔の話とか歴史上の話ではなく、今のあなたの実生活と何ら変わりないことをしているのです。そのような発見から仙台の街の良いところも再発見してもらいたい。よそから来た人に自慢をするネタを一つでも二つでも持ってもらいたい」
また、40年以上の発掘調査経験を持つ木村氏は、考古学的な『現場主義』を自身の活動として貫いている。座学だけでなくまち歩きも行い、江戸時代の絵図と現在の街並みを照らし合わせながら実際の場所を歩く。江戸時代の武士になったつもりで歩く体験型のまち歩きは、参加者の好奇心を刺激し、昔と今がつながる瞬間を生み出す。
木村氏:「室内で話をするだけではなく、一緒にまち歩きをして、これは以前話した、あるいは絵図に載っている、文献の記事に載っている、これがここですよという話をすると、みんな一気に400年前と今がつながります。そこに面白みがあるのだと思います。虜になってしまう人がたくさんいて、もうなかなか離れないのです」

実は木村氏の講演活動は、10年前のテレビ出演を機に大きく広がった。それ以前は60〜70代の男性が中心だったが、テレビ出演以降、40〜50代の女性の参加が増加した。彼女たちは好奇心旺盛で、講演を聞いた後すぐに街を歩いて確認し、次回の質問を準備してくるという。最近では、小中学校への出張授業も増えている。3メートル四方の江戸時代の絵図のカラーコピーを広げ、その上に子どもたちが乗って自分の学校や家の位置を探す授業は、歴史を『自分ごと』として捉えるきっかけになっている。
木村氏:「子供たちは大人とは異なる感性を持っており、吸収力が非常に高いです。構えることなく聞いてきます。何か石を投げると、みんなに波紋が広がるような感覚です」
ただ見たり聞いたりするのではなく、自分で考え体を動かして楽しみながら新しいことを体験することで、歴史に興味を持ち実際に身につくと木村氏は語る。そんな木村氏は現在、年間90本ほどの講演会やカルチャースクールを掛け持ちしている。コロナ渦前には年間100本以上、平均すると3日に1回は講話していたという。
木村氏の活動で特徴的なことがある。それは歴史資料を日常生活に取り込む工夫だ。江戸・大正・現代の絵図や地図を比較できるまち歩き用の資料、江戸時代の絵図を布にプリントした風呂敷、ユニークなグッズを制作・販売。まち歩きの際は、絵図を布にプリントした風呂敷を木村氏自身の背中にかけることで、参加者の興味につながるという。
木村氏:「手ぬぐいや風呂敷にすれば、誰でも気軽に使える。額装して飾る人もいるし、タペストリーとしても使える。博物館に行かないと見られない歴史資料を、一般市民が親しめるように手を加える。そうすることで、難しい資料ではなく、簡単に使えるものになる」
このようなグッズには、歴史に親しんでもらえるように工夫がされており、歴史が身近になることで人々の興味関心を広げる役割があるのだ。

木村氏が描く仙台の未来は、単なる近代化ではない。
木村氏:「古い良いものがたくさんまだ眠っているということに気づき、歴史の重みを感じる生活をしてもらいたいですし、街全体も、街の外から来た人が歴史の重みを感じられるような街づくりに生かしていけたらと思っています」
木村氏が注目するのは、江戸時代の用水堀システムだ。広瀬川の上流で取水した水を、河岸段丘という自然の地形を生かして流した上下水道排水などの水利システムである。
木村氏:「電気もないのでポンプも動かせませんが、自然にうまく流れるように仙台の街は広瀬川が何万年もの間に作っていった河岸段丘という雛壇の地形をうまく生かしながら、政宗公以来の仙台藩の殿様たちは、自然を生かして街づくりをしています。そのような考え方を継承していきたい」
もう一つの構想が、路面電車(トラム)の復活だ。
木村氏:「街の中をゆっくり移動して、街の風景が見えるトラムは、街の風景をみんなに楽しんでもらう意味で重要なアイテムになる」
49年前に廃止された仙台の市電。実は今も、軌道敷はアスファルトの下に残っている。
最後に、木村氏は若者に向けて力強いメッセージを送った。
木村氏:「昔は何があったか、誰が何をしたかといった知識も大切ですが、仙台を想う熱い気持ちをみんなで共有したい。それがささやかな願いです。このごろ人によく言われるのは、『先生の仙台愛を伝えているのですね』という感想です。まさにその通りで、仙台の街は、政宗公が425年前にここに来て街づくりを始めたところから始まるわけです。それを少しだけでも理解してもらったら、仙台の街の良さが理解できるのではないかと思います」
木村氏は、これまで積み上げてきた経験と人との出会いによって、興味関心や共有したいという想いから生まれる行動力が、地域の伝承と歴史を踏まえた街づくりにつながることを示した。西公園についても、同様の視点を持っている。
木村氏:「西公園も150年経ちましたが、まだまだ今の西公園の中に150年の間に埋もれてしまった面白い魅力がたくさん隠れています。これを改めて掘り起こしてほしい。こんな魅力も実は隠れていましたよということを再発見して発信してもらったら、西公園が単なる都市公園ではなく、歴史のある重みのある公園なのだということが分かってもらえる気がします」
西公園は150年の歴史を迎えた。しかし、その150年の中にも、まだまだ知られていない魅力が埋もれている。だからこそ、西公園の持つポテンシャルは絶大なのだ―。
Text:Reika Muraoka
Photo:Yuki Suzuki
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