Interview
2025/12/24
西公園の南側、桜並木の向こうに鳥居が見える。参道を進むと、静かな空気に包まれた櫻岡大神宮が姿を現す。今年で150周年を迎える西公園とともに歩んできたこの櫻岡大神宮には、伊達政宗がいた時代から現代に至るまでの仙台の歴史が刻まれている。 本記事では櫻岡大神宮の宮司である坂本訓之氏(以下、坂本氏)にお話を伺い、神社と西公園の関係性、そして地域との深いつながりについて聞いた。そこにあったのは、都市の喧騒が遠のく穏やかな落ち着いた空気感だった。過去から変わりゆく街の風景のなかで、その守り人が語る言葉から、長き歳月をかけて醸成された『杜の都の記憶』を紐解いていきたい。

写真:坂本訓之氏
櫻岡大神宮に祀られているのは、伊勢神宮と同じ神様である。天照大御神と豊受大神。分かりやすくいうと太陽の神様とご飯の神様だ。「日本で一番立派な神様だというふうに思っていただければ」と坂本氏は微笑む。この神社の創建は元和21年(1621年)。伊達政宗公がその神々を厚く信仰し、「ぜひ仙台の街にも欲しい」という想いのもと勧請したのが始まりだという。
坂本氏:「伊勢神宮という大きなお宮から特別のお許しをいただいて、『お祀りしていいよ』というふうに言われたのだと思います。それから伊達家が代々、公費を持ってお祀りをしていたというふうに聞いています」
仙台の大きな神社の多くは伊達政宗公と縁が深い。藩政を安定させるため、要所要所に神社を配したのだ。櫻岡大神宮もその一つとして、長く仙台の人々の信仰を集めてきたのだ。現在
櫻岡大神宮はもともと荒巻にあったが、明治時代に現在の西公園内に遷座した。その理由は、『近代公園法』の施行だったと坂本氏は語る。
坂本氏:「西公園は日本でも一番か二番目ぐらいの古い公園なのです。昔は近代公園をつくるにあたって、要件があったのだと思います。憩いの場所、池、人が寄るところ、お茶屋。そういった構成要素の中に神社も含まれていたのではないでしょうか」
櫻岡大神宮は、荒巻にあった頃から既に多くの参拝者が訪れる神社だった。それもあって、大町辺りの商人の大旦那様のような方々が「せっかくだからこちらの中心街の方にいらっしゃっていただけないでしょうか」と現在の場所に勧請した。
坂本氏:「昔は社格としては結構高い格だったので、昔は少し近づき難いところもあったようです。ただ、現在はお花見もできるような場所ですし、西公園にいらっしゃる方々にはよくお参りをいただいています」
櫻岡大神宮では、年間を通じて様々な祭事が行われている。毎月1日と17日には月次祭。その他、1月1日の元旦祭、2月3日の節分祭、6月30日の夏越祭、10月17日の例祭、11月15日の七五三祝祭、そして12月31日の大祓がある。特に6月の夏越祭、12月の大祓は大きな祭事で、これは一年間を半分に割って半年分のお祓いをするものである。日本には、『罪・穢れ』という概念があり、一生懸命生活していたらどうしても付いてしまう埃のようなものをお祓いで取り除こうとする考えである。最も多くの人が訪れるのは夏越祭で、大きな茅の輪を作り、そこをくぐってお祓いを受ける祭事である。

西公園の様相を大きく変えたのが、地下鉄東西線の開業だった。
坂本氏:「昔は人通りがなかったのです」
それでも、地下鉄開業後は土日の人通りが増えた。特に変わったのはお花見の光景だ。昔はお花見の時期というと、サラリーマンと学生が夕方からお酒を飲むために集まっていた光景が多かったそうだが、今では日中から桜の下でお子さん連れのママさんたちがお茶会をする様子も見るようになってきたという。さらに、西公園を訪れた人が櫻岡大神社に立ち寄ることも随分増えた。お花見の時期は特に顕著で、御朱印を求める方も多い。参拝者の方から感想をもらうこともある。元々は地元のお宮なので、昔は地元の方だけ参拝するという感じだったが、最近はマンションが多く建つようになり、新しく越してきた方から、「ここに神社があるのですね」といった声や「参拝しやすい」という好意的な感想が寄せられている。また、外国人観光客も増えた。台湾から西公園を目当てに来る観光客、大きいお守りを求めて訪れる外国人参拝者もいるという。
坂本氏:「私たちが日本人でさえあまり気にしないようなところにも魅力を感じてくれることもあるみたいですので、すごく驚きました」
櫻岡大神宮を訪れると様々な工夫に気づく。その一つが、毎月替わる限定御朱印だ。
「昔は御朱印というのはほぼなかったのです」と坂本氏は言う。神主になった頃は、一年に数枚頼まれる程度だったという。しかし少しずつ参拝者が増え、御朱印を求める人も多くなってきた。
坂本氏:「参拝者の方から、毎回同じだねと言われたものですから。せっかく何回もいらっしゃって来ていただいているので、それでは少し変わったのでも書いてみますかということで始めたのが、いわゆる限定御朱印という話になります」
今では坂本氏の奥様や娘様が中心となって、季節やイベントごとに異なるデザインの御朱印を手作りしている。色付きのものもあり、「初めて見ました」と驚く参拝者も多いという。

また、参道に咲くラベンダーも参拝者を楽しませている。これは以前からお参りに来られている方の提案で実現したものだ。その方が他の神社仏閣を訪れた際にラベンダーが植えてあり、それが印象に残ったようで「ぜひこちらでも」とお話をいただきラベンダーを植えることになったという。成長したラベンダーは刈り取って、夏越祭の頃に参拝者に配布している。
坂本氏:「せっかく刈っているのを捨てるのも申し訳ないし、いい香りするからということで、じゃあ差し上げたらいいという話になりました」
他にも、境内にはかつて『心字池』と呼ばれた心の字の形をした池があったが、震災後に水が溜まらなくなって埋めることになった。しかし「魚がいない」、「昔は池が楽しかったね」という声を受けて、今では季節ごとに提灯をぶら下げたり、風鈴や風車、鯉のぼりを飾ったりして、訪れる人の目を楽しませている。人気のおみくじも各種揃え、絵馬には動物の顔を描けるものも用意。さらには顔はめパネルも設置している。
坂本氏:「なかなかお宮というと敷居が高い方もいらっしゃるかと思います。せっかく街中にあるので、山に登らなくても行けるようなお宮なものですから、気楽に来ていただいて少し遊んでいただければという想いがあります」
神社を知ってもらえるようにする工夫も行っており、SNSではXやInstagramを活用し、ホームページと合わせて積極的に情報発信を展開している。一方、昔からのご縁のある方々に対しては、季節の行事やお祭りなどの情報を社報にまとめて郵送でお届けしている。
坂本氏はこの土地で生まれ育った。祖父の代から櫻岡大神宮に仕え、立町小学校を卒業した。坂本氏が子供の頃は、西公園内に防空壕の跡があり、プラネタリウムや市民プールもあった。また博覧会の会場となったこともあり、祖母からは広瀬川にはロープウェイが架かっていたという話を聞いたという。坂本氏の話によると実は昔、立町小学校の校舎は西公園の中のお花見広場の前にあり、その隣が坂本氏の家だったという。そのような歴史的背景もあって今でも立町小学校の子どもたちは、『お弟子さん体験』でこの神社を訪れる。神様へのお供え物を作る体験では、子どもたちの独創的な盛り方に坂本氏も「勉強になります」と楽しんでいる。
また、かつて十月の例祭では神輿が町内を練り歩いた。子どもたちがたくさんいた頃の賑やかな祭りの写真は、今も飾られている。
坂本氏:「お父さんとかおじいさんが写っていると言って見ている人たちがたくさんいます。コロナ以降神輿は出ていないが、いつか復活させたいです」

西公園は今、新しい変化の時を迎えている。国際センター方面の開発、澱橋下のスケートボードパークの整備。坂本氏はこれから多くの人々が西公園に訪れるきっかけになるのではと期待を込める。
坂本氏:「地域の皆さまは意外に西公園に訪れたことがないのかもしれないが、来てみれば西公園にはいろいろあります。川沿いの景観の美しさ、町中とは思えない緑の豊かさ。もっと見てもらう機会があってもいいのかなというふうに思います」
『仙台のお伊勢様』として親しまれてきた櫻岡大神宮。その静かな佇まいの中には、伊達政宗の時代から続く仙台の精神が息づいている。西公園を訪れたなら、ぜひこの場所で参拝をしてみてほしい。鳥居をくぐれば時を超えて仙台の歴史を肌で感じられるはずだ。
Text:Minami Nakamura
Photo:Yuki Suzuki
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