大手門をくぐる新体験。2036年に復元される仙台城正門が眠れる価値を呼び覚ます

      • History

      • Interview

      2026/2/11

      日常の喧騒と緩やかな時間が交差する場所、西公園。家族連れの笑い声が響き、カップルがベンチで語らい、お年寄りが散歩を楽しむ。そこは仙台市民にとってあまりにも当たり前の風景である。けれど想像してみてほしい。そのすぐ傍らに、かつて圧倒的な存在感を放つ“巨大な門”が立っていたことを。高さ約12.5メートル。木造2階建ての重厚な佇まい。それは仙台城の正門である大手門である。

      時計の針を1925年まで戻してみよう。陸軍の敷地だった青葉山一帯が『青葉山公園』として開放されたあの日から、人々は西公園を通り、この大手門をくぐって城内へと足を進めることもあった。しかし、1945年7月10日に戦火がすべてを変えた。仙台空襲によって大手門は炎に包まれその姿を消した。あれから80年。門のない風景に慣れてしまった私たちは、その場所が持っていた本当の輪郭を忘れかけているのかもしれない。だが、過去から受け継がれてきた歴史的物語はここで終わらない。伊達政宗没後400年である2036年、ついに大手門がこの仙台市に帰ってくるのだ。

      2036年に向けて誕生する仙台城大手門復元基本構想。これは単なる建物の復元計画ではない。過去と現在が結ばれることで仙台市への誇りが今まで以上にアップデートされる瞬間の始まりである―。

      写真:大手門(写真提供 仙台市戦災復興記念館)


      “くぐる”ことで伝わる歴史。大手門復元に込めたタイムトラベルの仕掛け

      「いざ、実物を見ると、写真では決して伝わらない凄さがあります。」

      そう語るのは、仙台市教育局文化財課の塩川 和氏(以下、塩川氏)である。彼は視察で金沢城や鹿児島城といった、かつての姿を取り戻した城郭へ訪れた際に本物が放つエネルギーに言葉を失ったという。確かに仙台城大手門には写真や実測図など、多くの記録が残っている。明治期に仙台城にあった多くの建物が失われた一方で、大手門は1945年の仙台空襲までその姿を留めていたからだ。大手門がそこにあったという証拠は十分にある。しかし、塩川氏は次のように語る。

      塩川氏:「写真で『見た』気になるのと、実際にその門を『くぐる』のは全く別物です。実際に生で見ることで、スケール感や迫力、近くで見ることで分かる木造の質感、それから周りの建造物との関係性など、復元する大手門は写真では伝わらない様々なことを伝えてくれると思います。」

      大手門の復元にあたっては、かつて門が存在していた場所、サイズ、意匠等により忠実に再現することが求められる。2036年に復元される門が私たちにどのようなことを語り掛けるのか楽しみである。さらに大手門復元は多くの人々が抱く『仙台城=山の上の本丸』という固定概念も塗り替える可能性をもつ。実は、仙台城の本来の姿はもっと広大で街と地続きだったのだ。

      塩川氏:「我々は仙台城全体について知ってもらいたい。そのきっかけとして、大手門を復元できたらいいなと思っています。」

      写真:塩川 和氏

      仙台市の歴史の象徴や観光地として多くの人がイメージする仙台城。仙台城といえば『山の上の本丸(伊達政宗公騎馬像)』『景色がいいところ』というイメージだろう。だが本来、仙台城は『城下町〜大手門〜本丸』というひとつの大きな流れを持っていた。現在の東北大学川内キャンパス(二の丸)や仙台市博物館周辺(三の丸)がある場所も含め、仙台城はもっと開かれた広大な規模感を持っていたのだ。同じく文化財課の川后 のぞみ氏(以下、川后氏)も話を続ける。

      川后氏:「仙台城は唯一無二です。そして仙台城を造った人物が伊達政宗公です。だからこそ、伊達政宗公から始まる歴史が現在にまで繋がっているということを一番思い出させてくれるものになってほしいです。」

      大手門を蘇らせる―。それは単に、古い建物を建て直すことではない。城下町から仙台城へと続く元々存在していた街の歩き方や歴史を再発見し、街での豊かな過ごし方そのものをデザインする壮大な試みなのだ。実際に仙台市が大手門復元によって目指す姿は4つ。『史跡の理解促進』『まちへの誇り・愛着を育むこと』『新たなランドマークの建設』『観光の推進』であり、その目指す姿に向かう入り口ともなる大手門が、2036年に姿を現すことになる。


      大手門復元が城を仙台市民の日常へと引き戻す

      2036年、完成した大手門の前に立っている自分を想像してみてほしい。仙台駅から歩き、西公園を横目に大橋を渡り、その先に続く道を歩く先に突如として視界に飛び込んでくる巨大な門。その門をくぐり抜けた瞬間、景色はガラリと一変する。かつての江戸時代の絵図が物語るように、そこには開放的で清々しい空間が広がっている。では、この場所をどう活用していく予定なのだろうか。

      塩川氏:「正面の坂を上って来られた方にはゆっくり休憩していただきたいですし、かつて江戸時代にも広がっていたであろう、見晴らしの良い空間を皆さんに感じていただきたいと思っています。それから広い空間を活用してイベントなども開催し、人々が集まる場所にしていきたいです。」

      それはお城という特別な場所を、仙台市民の日常へと引き戻す試みでもある。川后氏は城好きはもちろん、そうでない人々にとっても心地よい居場所であることを理想に掲げる。

      川后氏:「お城ではあるんですけど様々な方が過ごしやすい空間にしたいです。城が好きな人からすれば、それはそれで楽しいものです。それでなく、単に他の目的で来た方でも、こんな過ごしやすいところがあるんだと思っていただけるような空間にできればいいなと思っております。」

      大手門が復元することで、そこではまだ誰も見たことのない新しい日常風景が動き出す。そしてこのプロジェクトの核心を象徴するのが、8月上旬に開催された宇和島市との歴史姉妹都市提携50周年記念シンポジウムで交わされたある会話だと川后氏は語る。

      川后氏:「シンポジウムに参加いただいた『奥州・仙台おもてなし集団伊達武将隊』の伊達政宗さんへ、大手門ができたら何をされたいですかと質問が出た際に、『みんなと一緒にこの門をくぐって城に上がりたい』と話されていたことが印象的でした。改めて大手門はみんなで創り上げていくものなんだと感じました。」

      写真:川后 のぞみ氏


      決して簡単ではない道のりだからこそ待つ、何にも代えがたい誇り

      大手門の復元は、決して簡単な道のりではない。大手門の建築工事費だけで約15億円、そして完成まで10年という長い歳月。2026年の調査開始から、設計、検討、そして2032年から始まる4年間の工事期間を経て、ようやく2036年の姿が見えてくる。この壮大なプロジェクトを支えるのは、国の補助金だけではなく、各方面からの寄附、ふるさと納税といった、街を愛する一人ひとりの『想い』もまた、財源を支える大切な柱のひとつとなる予定だ。だが、仙台市が目指しているのは単なる資金確保ではない。そこにあるのは、仙台市民がこの物語の当事者として、復元のプロセスそのものに参加してほしいという強い願いである。こうした市民参加への想いの背景には、現場で歴史を紡ぐ担当者ならではの切実な実感がある。塩川氏は、ただ『完成した建物を見学して終わり』という形では寂しいと想いを込めて語る。

      塩川氏:「一度見に行って終わりではなく、ずっと関わり続けられる、ずっと関わり続けたいと思える、そんな愛される場所にしたいんです。」

      完成までの10年をただ待つ時間にするのではなく、共に創り上げるプロセスにする。その具体策のひとつとして地元の職人技術の活用も視野に入れている。そこには、技術の継承を超えた”家族の中で受け継がれる記憶”への期待も込められている。

      川后氏:「地域の職人さんをはじめ、多くの住民の方々にこのプロジェクトに関わっていただきたい。そうすることで街の中に『これは自分たちが造ったんだ』と胸を張れる人が増えていく。そして、今の子供たちがいつか『自分の親が、あの大手門を造ったんだ!』みたく誇らしく語れるような未来が来ること。それが私たちの理想なんです。」

      身近な誰かが手がけた門が、100年後の未来に残っていく。それは、この街で生きる私たちにとって何物にも代えがたい誇りになるはずである。

      塩川氏:「実は、仙台市にとって歴史的建造物の本格的な復元はこれが初めての挑戦。ノウハウがゼロの状態からのスタートです。でもこの挑戦を成功させることができれば、その先にさらなる歴史の再生や、新しい街の価値が生まれるはず。大手門の完成が仙台の魅力を再発見し続ける『循環』の第一歩になればと思っています。」


      2036年、完成した大手門の前で会おう

      川后氏:「大手門は単なる建造物ではありません。この復元は、仙台城の本質的な歴史的価値を深く理解するための、そして仙台市という街を今よりもっと良くしていくための挑戦です。」

      川后氏は、凛とした表情でそう語る。大手門の復元は失われたピースを埋めるだけの作業ではない。仙台市民が暮らす街の魅力を再発見し、未来へとアップデートしていくための壮大なプロジェクトなのだ。だが、歴史や文化財という言葉は、時に私たちの日常から遠く離れたものに感じられることもある。その距離感について川后氏はそっと語りかける。

      川后氏:「歴史や文化財は、自分とは関係のない誰かが守ってくれるものだと思われがちです。けれども本当は皆さんの生活のすぐそばにあるもの。少しでも興味を持って見つめたり触れたりすること自体が、すでに『文化財を守る』というアクションに繋がっています。」

      最後に、これからの10年を共に歩む若い世代へ。川后氏からは若者はもちろん今この時代 に生きる全ての人々の心に響く温かい想いを語ってくれた。

      川后氏:「『歴史の中に、あなたはいる。』そう伝えたいです。10年経って大手門が建ち、さらに10年経てば、それは当たり前の『日常の風景』になります。だからこそ、今この計画に関わることはこれから受け継がれていく歴史の1ページに加わるということ。大手門がない今の風景を知っていることは、実はとても幸せで貴重なことなんです。」 

      川后氏が語るように、視点を変えれば門が建つ前のこの景色が見られるのはあと10年しか ない。つまり今を生きる私たちは今、まさに歴史が動く瞬間の目撃者なのである。その挑戦の重みを塩川氏も強く噛み締めている。

      塩川氏:「私たちがこの挑戦を成功させることで未来へバトンを繋いでいきたい。このプロジェクトが仙台城の歴史的価値を掘り起こし続ける、最高のファーストステップになると信じています。」

      2025年西公開園150周年、そしてこの先に待つ2036年大手門復元。この期間は仙台市という街の新しい物語を、私たち一人ひとりが当事者として紡いでいく時間である。川后氏が語ったようにこの記事を読んでいるあなたは、すでに新しい歴史の目撃者であり、作り手の一人。だからこそ、2036年に完成した大手門の前で会おう。西公園を散歩して、そのまま大手門をくぐる日常を一緒に迎えよう。それを実現できる10年後の未来が今から待ち遠しい。


      Text/Photo:Yuki Suzuki

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