〈PROJECT REPORT#10〉産学官連携で挑んだ『若者が五感で楽しめる秘密基地』の定義づけ

      • Project

      2026/1/28

      2026年1月17日(土)、仙台市青葉区中央市民センターに集まった若者たちの表情は、今回も真剣そのものだった。 彼らの目の前にあるのは真っ白な模造紙と付箋、そして『若者が五感で楽しめる秘密基地』という一つのフレーズだ。

      これは、西公園ブランディングプロジェクト第10回定例会の光景である。 2025年4月に始動した本プロジェクトは、仙台市青葉区、株式会社BLUE SODA、そして東北福祉大学をはじめとする大学機関による産学官連携によって行われる仙台市青葉区若者社会参画型学習推進事業である。開園150周年という節目を迎えた西公園を舞台に、約2年間をかけて展開される全24回の定例会で実践的な学びを経て、最終的には仙台市長や青葉区長へ直接プレゼンテーションを行うことを目指している。

      第10回を迎えた今回の目的は『ブランドテーマの定義づけ』である。第9回定例会でようやく導き出した『若者が五感で楽しめる秘密基地』というブランドテーマ。だが、この言葉はまだ形だけの ”器” に過ぎない。 この言葉に西公園ならではという ”中身” を詰め込み、全員が同じ景色を共有できるまで言葉の解像度を上げることである。本記事ではそのブランドテーマを定義するために思考を巡らせた、若者たちの熱気溢れる様子をレポートする。


      三段階のステップで言葉の解像度を極限まで引き上げる

      『若者が五感で楽しめる秘密基地』。この言葉を耳にしたとき、あなたの脳裏にはどんな景色が広がるだろうか。おそらく100人いれば100通りの記憶や理想が浮かび上がるはずだ。だからこそ、ブランディングにおける『定義づけ』は、個々に散らばった解釈のピントを合わせ、全員が同じように語ることができる状態をつくり出すための極めて重要なプロセスとなる。そしてこの日のワークショップでは、緻密に設計された三段階のステップで進行した。

      まずは思考の土壌を耕す準備運動。一般的な『五感』や『秘密基地』のイメージを各グループで出し合う。五感の中でも視覚であれば『鮮やかなイルミネーション』、秘密基地であれば『大人に見つからない場所』や 『自分たちだけのルールが存在する場所』。いわば誰もが共感できる既成概念を確認する作業だ。そしてセッションは加速し、本番である第二段階目、西公園としての再定義へとダイブしていく。 一般的なイメージをヒントに、西公園という固有のフィールドと掛け合わせて具体化していくのだ。例えば、西公園における視覚とは何か。それは単なる光ではなく、『木々の隙間から降り注ぐ柔らかな木漏れ日』や、『四季が織りなす色彩のコントラスト』が例として挙げられる。 さらに秘密基地の定義も西公園ならではという定義として深化していく。

      最終段階は、これら無数に散らばった要素を約200文字の定義文へと編み上げる統合作業だ。 各々の脳内にあった断片的なイメージを、一つの共通言語へと着地させる。この言葉の精錬こそが、ブランディングの真髄であり、本プロジェクトが次の一歩を踏み出すための地図となるのだ。


      5つのグループが導き出した『若者が楽しめる秘密基地』の正体とは

      三段階で構成されたワークショップを経て、各グループは独自の『若者が五感で楽しめる秘密基地』の定義文を以下のように完成させた。

      ≫グループA定義文
      「私たちが定義する『若者が五感で楽しめる秘密基地』とは、『拡張可能なデトックススペース』です。ここでは、デジタル、社会などから離れて、自然を肌で感じられます。各々が周りを気にせず、好きなことをして過ごすことで物理的な壁がなくても安心できる場所。植物の色や動物の鳴き声、気温などから季節を感じ、誰かと話をしたりご飯を食べたりして温もりを感じられる場所です。それが西公園という秘密基地です。」 

      ≫グループB定義文
      『私たちが定義する『若者が五感で楽しめる秘密基地』とは、『いつ、どんな時でも帰ってこれる居場所』です。ここでの『いつ、どんな時』とは花火や花見をさし、花火大会では花火の音や色を楽しめます。また、花見では、花びらの感触や風に乗ってくる花のにおいを感じられます。このように西公園は五感を感じに来て、仲間と集まれる場所だと思います。」

      ≫グループC定義文
      「私たちが定義する『若者が五感で楽しめる秘密基地』とは、『アナログを感じながら、落ち着ける隠れ家』です。私たちは秘密基地とは、自分たちで見つけ、作り上げる居場所だと考えました。西公園は、木々に囲まれているという点で隠れ家であり、土や草の匂いを感じられるという点でアナログを感じられる場所であり、広いからこそ自分の気に入った場所を見つけやすいという点で秘密基地であると考えました。だから、私たちは西公園をこのように定義づけました。」

      ≫グループD定義文
      「私たちが定義する『若者が五感で楽しめる秘密基地』とは、『みんなの宝物があつまる場所』です。宝物は利用者それぞれの五感に基づいた楽しみ方のことを言います。静かな空間が好きな人もいれば、にぎやかな空間が好きな人もいる。そして西公園における秘密基地はみんなが自由に、好きなことができるようにエリアで分けたり集めたりできるのが良いということでこの定義にしました。」

      ≫そしてグループE
      「私たちが定義する『若者が五感で楽しめる秘密基地』とは、『ふらっと立ち寄れるサードプレイス』です。ここには、植物の色や匂い、心地良い自然音や適度な人の気配、落ち葉踏みなどのリアルな自然体験といった西公園だからこそ感じられる安心感や充足感があります。それらを求めて気軽に立ち寄れるような、非日常感のある第三の居場所、それが西公園という秘密基地です。」


      産学官連携という強固な三角形で見守る若者たちの成長

      この日も定例会の熱気を見守り、最後に深い洞察とともに振り返りを行ったのが、ブランディング・広告・デザインを専門とする株式会社BLUE SODA代表取締役の相澤総一郎氏(以下、相澤氏)だ。彼はブランディングのプロフェッショナルとしてこのプロジェクトにおいて若者たちの学びを支える重要な役割を担っている。相澤氏の役割は、決して正解を授けることではない。 ブランディングのプロセスに沿って、若者たちが自らの手で考え、議論し、言葉を研ぎ澄ませていくという物事の考え方そのものを伝え、彼らが壁にぶつかった瞬間に次の一歩を照らすヒントを投げかけることだ。この120分という限られた時間の中で若者たちが試行錯誤しながら答えを導き出せるよう丁寧に場をデザインする。それこそがプロフェッショナルとしての彼の流儀なのだ。さらにこの日は東北大学の松本大教授も参加。このように産学官連携という強固な三角形の中でそれぞれの専門性を活かしながら若者たちをバックアップする。この盤石なサポート体制こそが、本プロジェクトを通じて若者たちが未来でさらなる飛躍をすることを確信させてくれている。


      アンケートに綴られた若者たちの思考の痕跡

      定例会後のアンケートには、参加者全員が回答した。満足度は高く、『とても満足』が10名、『満足』が3名という結果だ。しかし、数字以上に重要なのは彼らが記した自由記述の内容である。彼らの意見からは、このワークショップが単なる西公園のブランディングにとどまらず、参加者自身の思考力を鍛える場になっていることや、グループワークを通じてコミュニケーション力やリーダーシップも育まれていることが分かる。実際にアンケートに綴られた若者たちの思考の痕跡を以下に記す。

      「定義付けの重要性に気づいた。ステップを学ぶことで、自分の思考の言語化にも役立てられると感じた。」

      「定義が人それぞれ違うことに驚いたし、面白かった。」

      「同じテーマで話をしていても、自分では思いつかないような意見を聞くことができて良かった。」

      「話をしながら、自分の考えを整理することができたと思う。初めてリーダーだったけれど、他の先輩に助けてもらいながら、なんとかやり遂げることができた。」


      西公園発、新しい価値をもつ社会循環

      第10回定例会を終え、若者たちの学びはさらなる深化のフェーズへと移行する。 今回定義した『若者が五感で楽しめる秘密基地』を基に、次はブランドコア、すなわちパーパス(社会的存在意義)・ビジョン(目指すべき未来像)・コンセプト(提供できる価値)というブランディングの核心たる三つの問いに挑むことになる。西公園は若者や社会にとってどのような存在意義があるのか、西公園はどのような未来を目指すのか、そして西公園はどのような価値を若者に提供することができるのか。抽象的だった言葉に具体的な定義を与えた今、若者たちはさらに深い問いと向き合うことになる。答えのない問いに挑み続けることで、彼らの思考はより深く広くなっていく。

      全24回のプログラムも、もうすぐ折り返し地点を迎えることになる。2027年、この旅が終わりを迎えるとき、彼らはどのような成長を遂げ、西公園にどんな新しい息吹を吹き込んでいるだろうか。西公園というフィールドを舞台に若者が育ち、その熱量を社会が支える。 そんな新しい価値をもった社会循環が、仙台の地から今たしかに動き始めている—。


      Text:Yuki Suzuki
      Photo:kensuke Miura

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