「実はいろいろある」150年の時間が折り重なる、西公園という都市の "レイヤー"

      • Interview

      2025/11/26

      仙台の街を歩いたことがあるなら、きっと一度は “西公園” という名前を聞いたことがあるだろう。ただ、その三文字から多くの人が思い浮かべるイメージは意外とバラバラだ。『桜の季節に行く場所』、『ジャズフェスのステージ』、『七夕花火の鑑賞スポット』、『散歩の途中にちょっと抜ける緑の空間』―。しかし、今年で開園150年を迎える西公園の正体は、そんな街なかの公園という枠にはおさまらない。 歴史、公園文化、都市再開発、アーバンスポーツ、音楽、地形、記憶等、そのすべてがひとつの場所に折り重なり、レイヤーのように重層的な姿をつくりあげている。

      本記事では、西公園を深ぼるために、3名の仙台市公園整備課の声から知った西公園の歴史と現在、そして未来を描き出していく。

      写真:仙台市公園整備課職員(右側から和泉麻里子氏 牛米慶太氏 佐々木史也氏)

      西公園が生まれた瞬間。国策がつくった都市の余白

      西公園のはじまりは、明治政府の近代化政策だ。 明治6年、太政官布達第16号『公園制度の源流』が全国へ発せられた。内容は以下の通りだ。

      『名所・旧跡、人々が集まる場所を選び、公園として整備せよ』

      これは単なる行政文書以上の意味を持っている。近代化という大きな流れの中で、市民の余白となる空間を行政がつくり始めた瞬間だった。宮城県は、この通達に基づき、伊達家重臣の屋敷跡が集まる高台を選んだという。理由の詳細は記録に乏しい。しかし、公園整備課は言う。

      公園整備課:「名所旧跡として人が集まる場所だったと考えるのが自然です。ただ、県が具体的にどう判断したかは分からないところが多いんです」

      つまり、西公園は謎を含んだ誕生をしている。ただ、この誕生が後の150年間で、さまざまな市民の記憶を受け止める器の大きさにつながっていくことになる。


      明治・大正・昭和の西公園は建物だらけ?

      西公園というと木々の景色を思い浮かべがちだが、明治から戦前の西公園はまったく違かった。仙台市公会堂、偕行社(軍関連施設)、立町小学校の仮校舎、茶屋、各種展示施設、博覧会の会場建築など、多数の建物が立ち並んでいたという。

      公園整備課:「今のようなひらけた公園とは全然違います。市民が自由に使えない場所も多かったかもしれません」

      また、西公園では明治9年に『宮城博覧会』が開催されたことが分かっている。これは、仙台が近代都市へ歩みを進める象徴的な出来事だった。建物が密集し、人が溢れ、展示物やステージが並び、音が鳴り、にぎわいが街の空気ごと変えていく。しかし戦後、都市公園法が制定され、建ぺい率の制限が明確になる。これにより、公園には公園施設以外の建物は原則として建てにくくなった。市民図書館や仙台市天文台など、一定の施設は許容されていたものの、戦前のような混沌は整理されていく。この政策の転換が、現在の西公園の形成に直結しており、西公園再整備計画の基盤にもなった。

      市図書館(西公園内)
      写真提供:仙台市戦災復興記念館

      市天文台(西公園内)
      写真提供:仙台市戦災復興記念館


      都市の地形と記憶が交差する場所、西公園

      現在の西公園の特異性を語るうえで外せないもの、それは広瀬川との距離だ。公園整備課はその魅力をこう語る。 

      公園整備課:「西公園の魅力は、川との近さですね。青葉山公園側は高低差があるんですが、西公園側は比較的フラットで、川の様子を身近に感じられます」

      この西公園は、仙台城跡と街の間にある場所だ。街の中心に位置しながらも、どこか境界を歩いているような感覚が残る。この高低差は、単なる地形ではなく、市の歴史的な傷跡そのものだ。さらに、その縁には戦時中の防空壕が今も塞がれた状態で残されており、西公園はまさに、都市の記憶が土の中で呼吸する場所でもある。

      さらにこの公園を歩くと、驚くほど多くの記念碑に出会う。ひとつひとつの由来を読み解くことは、仙台の文化と政治と歴史の断面を覗き見ることになる。

      公園整備課:「とにかく西公園には石碑が多いと思うはずです。それだけこの西公園には歴史が刻まれてきたということなんです」

      記念碑の数の多さは、日常生活の中に眠る歴史の露出とも言える。つまり、西公園という空間は、150年にわたる都市のレイヤーを可視化する場でもあるのだ。


      季節が織りなす、西公園の四つの顔

      西公園は、春夏秋冬で完全に姿を変える公園だ。季節の移り変わりによって、その表情と都市における役割を劇的に変化させる。春は、街のテンションを一段上げる花見の季節。園内には屋台やキッチンカーが並び、多くの市民が隣り合わせで酒を酌み交わす。夏は、広瀬川の対岸で打ち上げられる七夕花火を見る定位置となる。秋は、音楽の季節だ。定禅寺ストリートジャズフェスティバルでは、西公園にも複数のステージが設置される。ベースの重低音、ドラムのハット、サックスの抜けるような音。木々の間を音が跳ね、都市と音が重なっていく瞬間を生み出す。冬は、静寂と淡い光の季節。イベントは少なくなるが、公園の営みが止まるわけではない。光のページェント期間中は園内のSLがライトアップされ、その柔らかい光が公園全体を照らす。

      このように、季節によって表情が大きく変わることも、西公園が持つ魅力の一つでもあるのだ。

      写真提供:仙台市


      未来を創る再整備。西公園が目指す日常のサードプレイス

      近年、西公園は大規模な再整備を進めている。その背景には、老朽化した施設群への対応に加え、地下鉄東西線の開通や街の再開発加速といった大きな都市の流れがある。

      この再整備において、最も注目されているのが、かつてプールだったエリアだ。ここには、若者を中心に多様な身体文化を受け止めるアーバンスポーツの拠点が整備される。特にスケートボードパークの設計は、公園整備に対する市の本気度を物語っている。公園整備課は次のように語る。

      公園整備課:「当初は平らなスペースをひとつ作る案だったが、それではスケーターは喜ばない。だから本格的なコースに設計を変更しました」

      ユーザー側の視点を尊重した結果、本気のスケートボードパークが誕生することになった。バスケットボールコートも同様に、当初は『リングをつけるだけ』の計画であったが、最終的にはきちんとコートとして設計し直された。また、子どもだけでなく大人も使える大型の膜遊具が導入され、さらに屋内遊び場の建設も計画されている。西公園は、全天候型で遊べる場所を取り込み、今後世代を超えた利用が可能な公園へと変貌していく。この大規模な再整備が目指しているのは、イベントのときだけ人が集まる公園ではなく、日常的に人が滞在する場所だ。

      公園整備課:「今は目的がないと来ないかもしれません。でも10年後は、『西公園行こうよ』が普通になってほしいです」


      公園整備課にとって西公園とは―?

      インタビュー終盤に、初めて西公園を訪れる人に西公園の魅力をどのように伝えるべきか尋ねると、公園整備課から返ってきた答えはシンプルであった。

      公園整備課:「実はいろいろある」

      桜、記念碑、防空壕、SL、茶屋、広瀬川、イベント、アーバンスポーツ。静けさと賑わいが同居し、歴史と未来が混ざり合い、都市と自然が溶け合う。西公園は、その多層的な魅力を一言で言い表せない場所であるという。インタビューの最後には、『公園整備課職員にとって西公園とはどんな存在ですか?』と問いかけた。すると公園整備課の言葉からは、現状の課題と未来への明確なビジョンが示されていた。

      公園整備課:「発展途上の公園。観光資源になる可能性も秘めた場所です。今はイベントのときしか行かないかもしれないが、未来はサードプレイスにしたい」

      公園整備課が描く未来のビジョンは、西公園が常に変化し続けてきた歴史の上に築かれている。今から50年前、西公園が現在の姿になることを誰が想像できただろうか。博覧会が開かれ、建物だらけになり、戦争を経て、戦後に公園らしさを取り戻し、イベント文化が育ち、都市開発の波にさらされ、そして今、新世代の公園へと進化しようとしている。これからの10年、20年で西公園には何が生まれ、何が重なり、何が失われ、何が新しく刻まれるのか。これからの未来から目が離せない。


      Text:Keisuke Asano
      Photo:Yuki Suzuki

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