写真が集まると西公園はこんな顔を見せてくれた―。Fコンが照らし出した日常の中の発見。

      • Interview

      2026/8/19

      西公園のそばを毎日通り過ぎていても、「ここがこんなに美しかったのか。」と毎回新たな魅力に気づく瞬間は案外少ない。木陰のベンチ、桜並木の奥の光、誰かが走り去った後の静けさ―。それらは確かにそこにあるのに、日常のスピードの中ではなかなか見えてこない。

      令和6年度に青葉区が主催したフォトコンテスト『Fコン』には、目標の400件を大きく上回る549件もの写真が集まった。『Fコン』とは、青葉区が令和5年度から取り組むまちづくり事業『Fun,Fan,Find青葉』の一環として実施されたもので、大町・西公園エリアの魅力を市民自身の手で発見・発信することを目的としている。集まった写真たちは、この公園がふだんどれほど多くの顔を持っているかを鮮やかに示してくれた。見慣れたはずの場所が、他の誰かのレンズを通すと全く違って見える。そんな体験を一枚の写真がもたらしてくれることがある。『Fコン』はまさに、そうした”見え方の変化”を街ぐるみで起こそうとした試みだった。今回は、『Fコン』をテーマに、この取り組みを担った仙台市青葉区まちづくり推進課の職員である田中豪氏(※取材当時)(以下、田中氏)に話を伺った。

      仙台市青葉区まちづくり推進課(取材当時)田中 豪 氏


      『楽しみ、愛着を持ち、発見する』。Fun,Fan,Find青葉とは。

      『Fun,Fan,Find青葉』は、令和5年度(2023年度)から青葉区が取り組むまちづくり事業だ。名前が示すとおり、エリアを『楽しみ(Fun)』、『愛着を持ち(Fan)』、『新たな魅力を発見する(Find)』という3つの視点で地域を活性化することを目指している。この事業の舞台となるのは、青葉通りから大町・西公園にかけてのエリアだ。そして現在の仙台市では、各区役所が特色ある地域活動を推進する方針を掲げており、青葉区がこのエリアに目をつけたのには明確な理由があった。

      田中氏:「青葉区として西公園や大町のエリアには歴史があり、都心のすぐそばに公園があるという特徴がある。一方でこれまで行政があまり手をつけてこなかったこれからの場所でもある。そこで賑わいや地域活性化に取り組めないかというところから始まりました。」

      豊かな地域資源を持ちながら、まだその魅力が十分に掘り下げられていない。そのポテンシャルを引き出すために行政ができることは何か—。『Fun,Fan,Find青葉』は、その問いへの一つの答えとして生まれた事業だ。行政が「ここに行ってください!」と発信するのではなく、地域に暮らす人や訪れた人が自ら魅力を発見し、伝える仕組みをつくる。それがこの事業の核にある考え方だと、田中氏は語る。


      なぜ『写真』だったのか―。

      地域の魅力を発信する手段は数多くある。イベント、ガイドブック、SNS投稿等。その中で選ばれたのは、フォトコンテストというやり方だった。理由のひとつは、誰でも参加できるという間口の広さだ。文章を書くには言語化の壁がある。絵を描くには技術が要る。しかし写真は、スマートフォンやカメラさえあれば子どもから高齢者まで、誰もがシャッターを切ることができる。撮影という行為そのものがまちを見直すきっかけになる。そして「いつもとは違う目でここを歩いてみよう!」という意識が生まれた瞬間、その人にとってまちとの関係が少し変わる。『Fコン』と名付けたこの取り組みは、まちとの関係性を変えるきっかけをできるだけ多くの人に届けることを意図していた。

      田中氏:「ここを訪れた人たちが新たな発見をしたり、地域にずっといる方が自分たちの街のいいところを紹介したいと思って発信したりする。そこに意義があると考えました。」

      撮影した写真を投稿するプラットフォームにInstagramを選んだことも、間口の広さを意識した判断だ。若い世代から幅広い層にInstagramは普及しており、ハッシュタグ機能を使えば発信内容が自然に広がっていく。告知にあたってはポスターや地下鉄沿線への掲示に加え、仙台市内で高い拡散力を持つ情報メディア『仙台つーしん』にも依頼し、一気に認知を広めた。また、『Fコン』と同時に『Fウォーク(フォトワークショップ)』も開催された。プロのメディア関係者が参加者に写真の撮り方や魅力の伝え方を直接レクチャーするこの企画は、撮るという行為に自信が持てない人への後押しになると同時に、写真を通じて自分たちのまちを語ることの楽しさを体験してもらう場ともなった。

      田中氏:「参加された方から、『自分たちの住んでいる場所を人に知ってもらいたいという気持ちが強くなりました。』という声もいただきました。」


      ”549件の写真”が映し出した西公園。

      蓋を開けてみれば、目標の400件をゆうに超える549件の写真が集まった。仙台市青葉区まちづくり推進部内では「投稿してくれるかな。」という心配や「実際やっても人が来ないんじゃないか。」という不安もあったという。しかし結果は予想をはるかに上回るものだった。写真に写り込む被写体の層は、この公園がいかに多様な人々に使われているかを物語っていた。子どもを被写体にした家族写真、若者が友人を撮った一枚、早朝の光の中に浮かぶ木々—。年代も撮影時間帯も視点も様々な写真群は、『西公園』というひとつの場所が持つ重層的な豊かさを映し出していた。データとして年代層の把握は難しいものの、応募作品を見る限り子育て世代や若い層の参加が目立ったと田中氏は語る。

      賞の選考は一次・二次と段階を踏んで行われ、『Fコン』事業の担当職員だけでなく、まちづくり推進部の部長、青葉区長、青葉区副区長も参加。さらに区役所内の若手職員グループ『ASIPP(アシップ)』のメンバーも加わり、若い目線での評価も取り入れた。ASIPPは各部署から集まった若手職員が区の業務改善や魅力発信を考えるグループで、この年度はまさに青葉区のいいところをInstagramで発信する活動に取り組んでいた。行政の中からも若い感性を取り込みながら、549件の写真は丁寧に審査されていった。

      その中でも田中氏が特に印象に残ったと語るのが、青葉通りを正面から捉えた一枚だ。道路のど真ん中から撮ったように見えるその写真は、実は交差点にある地下エレベーターの角から撮影されたもの。普段であれば中々その場所から撮影しようと思わないような場所から捉えた、木のトンネルのような青葉通りの姿だった。田中氏自身は北海道出身で、学生時代に訪れた仙台のまちに木のトンネルがある風景に「すごいなあ。」と感じた記憶があるという。その原体験と重なるように、一市民が切り取った写真がそこにはあったのだ。

      写真:Fun,Fan,Find賞『東二番丁青葉通交差点』(写真提供:仙台市)

      田中氏:「見方によって全然違うし、普段あたりまえに存在する風景も、見る人によって色んな見方があり、それも仙台の魅力となる。我々だけじゃ分からないところを市民の方々のお力を借りることで様々なヒントを頂ける。そう実感した一枚でした。」


      写真から見えてきた西公園の新しい魅力。

      549枚の写真が照らし出したのは、若者が良くイメージする”イベントの場”としての西公園だけではなかった。西公園では毎年、様々な野外イベントが開催される。それ自体もちろん大切な公園の役割だ。しかし、『Fコン』に集まった写真が示したのは、イベントのない”普段の日”にも、この公園が人々にとってかけがえのない場所になっているということだった。

      田中氏:「普通に歩いていると分からないことがあります。でも、写真を出していただけると『これってどこなんだろう、行ってみよう!』とか『こんな場所あったんだ!』と思える。もっと多くの方々に写真を通じて魅力が伝われば、今以上に素敵な場所として捉えていただけると感じることができました。」

      そして田中氏は西公園を、『公園らしい公園の使い方ができる場所』と言う。休むことも、読書も、ランニングも、ただぼんやりと木漏れ日を眺めることも、この公園ではすべてが自然に成立する。さらに西公園は定禅寺通りや国分町、仙台駅からも歩ける距離にありながら、驚くほど静かでいられる。都市の喧騒と緑の静けさが、これほど近い距離に共存している場所は珍しい。こうした発見の視点は、本メディア『TIME MACHINE NISHI PARK』が若者たちのフィルターを通して西公園の過去・現在・未来を繋ぐように、『Fコン』に応募された写真の数々は、過去を知ることで現在の豊かさに気づかせてくれると同時に、他者のレンズを通して見ることで自分の日常に新しい意味をもたらしてくれるのだ。

      Fun,Fan,Find大賞(最優秀賞)『西公園の蒸気機関車(SENDAI光のページェント)』(写真提供:仙台市)

      Fun,Fan,Find大賞(優秀賞)『西公園の地下鉄東西線高架下プロムナード』(写真提供:仙台市)


      写真を撮らなくても見え方は変わる。

      『Fコン』を通じて行政として気が付いたこと—。それは『行政だけでは見えない視点が、市民の中にある。』という事実だった。549枚の写真は、担当者たちが歩き慣れたはずの場所の知らなかった顔を次々と見せてくれた。「集まった写真を他にも活用しないのは勿体ない。」という声が仙台市青葉区まちづくり推進部内で上がっており、寄せられた写真は今後のまちづくり活動にも活用されていく予定だ。さらに、『Fコン』の根底にある『Fun,Fan,Find青葉』という取り組みの具体的なアイデアはまだまだ模索中だが、仙台のまちを歩くこと自体が楽しくなる仕組みを創出したいと田中氏は語る。

      田中氏:「地元の人たちが自分たちのまちを誇らしく思い、好きでいる。それこそが何より素晴らしいことだと思っています。『Fコン』を通じて見つけることができた、『そこに足を運ぶからこそ見える世界』があります。西公園は都心からすぐ足を伸ばせるところにあるので、ぜひ足を運んでみてほしいと思います。」

      この記事を読んでいるあなたが、もしも西公園を毎日通っているとしたら、もしくは通る機会があるのだとすれば、次に歩くときは少しだけ立ち止まってみてほしい。いつもと違う角度から空を見上げてみるだけで、見慣れた場所がまったく別の顔を見せてくれることがある。必ず写真を撮る必要はない。ただ、視点を変えるだけでいい。そうすることで、次に西公園を含む”仙台市の新しい顔”を見つけるのは、他でもないあなたかもしれない。 


      Text:Saki Furuichi
      Photo:Yuki Suzuki

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