若者をどう育成するか? 仙台・西公園ブランディングプロジェクトに見る産学官三者の情熱対談。

      • Interview

      2026/4/08

      明治8年の開園から150周年を迎えた仙台市青葉区に位置する西公園。そこは仙台市民にとって”そこにあるのが当たり前”の風景となっている。その西公園を題材とした一つの取り組みが令和7年度から始まった。それが『西公園ブランディングプロジェクト』である。仙台市内の若者が主体となり、西公園の価値を再定義して発信していくこの試みの最大の特徴は、行政・大学・民間企業が手を取り合う『産学官連携』という枠組みにある。立場も考え方も違う3つの組織が、どうして西公園という一つの場所でつながったのだろうか―。

      本プロジェクトの『官』を担うのは、仙台市青葉区中央市民センターの三浦健輔氏(以下、三浦氏)。『学』を担う仙台市内の大学機関の一人として学生を導く東北大学准教授の松本大氏(以下、松本氏)。そして『産』の視点からブランディングのプロとしてノウハウを注入する株式会社BLUE SODA代表取締役の相澤総一郎氏(以下、相澤氏)。この三人のキーマンによる対談から、プロジェクトの真髄とそこに関わる『若者』への想いを浮き彫りにしていく。

      写真:左側から三浦氏、松本氏、相澤氏


      産学官連携の夜明けとゼロからの出発。

      本プロジェクトは、青葉区中央市民センターの三浦氏が描いた「産学官が連携し、実社会に根ざした教育プログラムを構築したい。」という想いもあって始まった。しかし、現在『学』の柱として深く関わっている東北大学の松本氏は当初このプロジェクトとは無縁の立場にいた。

      松本氏:「もともと青葉区中央市民センターの職員の方々とは交流があり、最初は『若者事業について授業で紹介してほしい。』という依頼でした。完全に他人事だったんです。しかし、三浦さんから何度も熱心にお話を伺ううちに、令和7年10月からの授業で活用できるんじゃないかとふと思い至りました。」

      松本教授がこのプロジェクトに珍しさと価値を感じたのは、その取り組みの特異性にあった。

      松本氏:「産学官連携の仕組み自体は、もちろん世の中にたくさんあるわけです。大学と行政の連携はよくありますが、大学と民間企業が、特にこの社会教育や地域づくりの分野で深く関わるというのはあまり多くありません。このように『若者をみんなで盛り上げていこう』という目的のために三者が集まるというのは、非常に珍しい取り組みだなと思いました。」

      松本氏が感じた『若者を盛り上げるための三者の集結』という特異な熱量。そこに、民間企業として『実務』と『志』を注入したのが相澤氏だ。相澤氏は、三浦氏が蒔いた種が自身の理想とするまちづくりの形と重なった瞬間を振り返る。

      相澤氏:「松本先生がおっしゃる通り、この取り組みだからこそできることがあると感じました。私の会社自体、まちづくりを事業の一つとしてやっています。でも観光客が来ればいいとか、外側のPRだけをすることは、正直全てのゴールではないと思っているんです。どちらかというと、住んでいる人の意識を変えてプレイヤーを増やしていく。ただそれは民間企業だけではできないんです。行政も学校も、全部が絡まないとまちづくりはうまくいかない。だから三浦さんに声をかけられた時はまさにこれだ!と思いました。ただ、最初にお会いした時は短期間で準備できるのかという不安は正直ありました(笑)。でも、三浦さんの熱意があまりにも強かったのでこれは絶対にやりましょうと思いましたね。」

      「西公園をどうするか。」という問い以上に、「若者をどう育てるか。」という共通の想いで結ばれた三者。立場を超えて重なり合ったその熱量が、制約や不安を抱えながらも150年続く公園に新しい風を吹き込む原動力となっていた。


      『自治』をめぐる葛藤と、立場の違いがもたらすシナジー。

      産学官連携という言葉は響きが良いが、その実態は背景も論理も異なる組織がぶつかり合い、対話を重ねる泥臭いプロセスの連続だ。プロジェクトが本格的に動き出す前、松本氏は『学』の立場からある本質的な懸念を抱いていた。

      松本氏:「私が授業を始める前の段階で、最も慎重に考えていたのは『自治』の問題です。東北大学という大きな組織の学生たちが地域に入ることによって、本来はそこの住民の方々がやるべきことを学生が代わりに行い、結果として地域の自律的な力が弱まってしまうのではないか。いわば、若者が地域の自治を奪ってしまうことへの恐れがありました。」

      この問いに対し、三浦氏は大きく頷きながら行政としての視点を重ねる。

      三浦氏:「その視点は非常に重要です。地方自治とは本来、住民が自分たちの地域のことを自分たちで行うもの。学生や私たち行政は、ある一定期間しか関わりません。だからこそ、若者はあくまで『活力を与えるスパイス』となり、地域住民という『土壌』と共鳴し合う形が理想なんです。そのバランスを調整し、地域を奪うのではなく『育む』場にすること。それが、私たちの役割だと思っています。」

      『官』と『学』が地域の持続性を見据える一方で相澤氏は、別の角度からこのプロジェクトの難しさを感じていた。それは、プロとしての『質』と、教育としての『主体性』の狭間にあるジレンマだ。

      相澤氏:「お二人の話を聞いていて、私も現場で感じていた不安があります。それは活動が『月に一回』しかないという点です。ビジネスの世界とはスピード感が違いますし、学生たちには強制力もありません。月一回の関わりで、どうやって熱量の流れを作っていくか。彼らの主体性を尊重しながら、本当にブランディングとして機能する形にまで持っていけるのか。それは正直、今でも大きな課題だと思っています。」

      この相澤氏の吐露に対し、松本氏は「だからこそ、BLUESODAという民間企業の存在がこのプロジェクトに不可欠な『熱』をもたらしている。」と話す。

      松本氏:「民間企業は本来、最短距離で成果を出すことを求められるはずです。でも、相澤社長や鈴木さん(株式会社BLUE SODA)は、若者の成長を信じて本当に粘り強く見守ってくださっている。教育者の私から見て、単なる仕事の枠を超えて伴走してくれていると感じます。その計算を超えた関わりが学生たちの心を動かしているのではないでしょうか。」

      相澤氏:「私は大人の満足は二の次だと思っています。三浦さんの言う『育成』こそがゴール。学生がこのプロジェクトでどう育つか、プロとしてそこに照準を合わせています。」


      フィールドワークが教えてくれた社会教育の原点。

      この『育成』が動き出したのは教室の中だけではない。実際に西公園へ足を運び、現実に触れる『フィールドワーク』の現場だった。資料を読むだけでは決して見えてこない西公園の実情を肌で感じることで、学生たちの意識は大きく変わり始める。しかし、舞台となる西公園に対し、三人が最初に抱いていた本音は意外なほど共通していた。

      松本氏:「西公園は花見やサークルの新歓で使う場所。私にとっても学生にとっても、それ以上でもそれ以下でもないというのが率直な印象でした。なのでこの話を伺った時は、『西公園か……』という感じでしたね。」

      相澤氏:「私も同感です。プロの視点から見ても、正直『本当にここでブランディングができるのか?』と、最初は頭を抱えるような感覚でした。」

      しかし、実際にフィールドワークへ行くと、その印象は劇的に変わっていく。

      松本氏:「実際に西公園に行ってみると、こんな空間があるんだとか、こんな人が利用をしているんだというのが分かって本当にびっくりしました。」

      相澤氏:「フィールドワーク、楽しかったですね(笑)。学生たちも楽しそうでした。今の世の中ってネットやAIがあって、分析なんてAIがやってくれるんですよ。それよりはフィールドワークとか、現実でしか得られない情報が大切だし、価値も感じるし楽しいんだと思います。自分が現実に入っていくので、イメージが湧きやすくなるんですよね。」

      こうした現場の楽しさの背景にあるものを、松本氏は自身の専門である『社会教育』の視点から説く。

      松本氏:「社会教育は、人々が抱えている関心や課題を他の人たちと一緒に学び合ったり、支え合ったりしていくものです。そういう意味でいうと、今回のプロジェクトそのものが西公園という題材に関して、いろんな若者たちが知恵を出し合って話し合うというまさに社会教育的な取り組みだと言えます。」

      この専門的な意見に、相澤氏は新鮮な驚きを覚える。

      相澤氏:「そういう視点だったんですね!学校の先生たちってやっぱりそういう視点があるじゃないですか。我々はビジネスをやっているので、どうしてもお金になるかならないかという判断が最優先になってしまう。だからこそ松本先生に用に小さいところにも焦点を当てて、ちゃんとそこをフォローしていくという視点はすごく大切だなと思いました。」


      大人と学生の視点のギャップと若者の主体性

      2025年4月から毎月1回ずつ開催している定例会でのワークショップが進むにつれ、大人と学生の視点の違いが面白い化学反応をもたらし始めた。特に2025年10月から東北大生が本格的に加わったことは、現場にこれまでにない熱量と新鮮な刺激を与えている。

      松本氏:「毎回学生の話を聞いていて、本当に自分は歳を取ったなと思います(笑)。彼らがこの場を楽しみ、自由なアイデアを次々と出してくる姿は非常に刺激的です。普段の講義では見せないような爆発的な主体性がこの場で引き出されています。」

      この学生の主体性を支えているのは、大人たちが作り出す、心理的な壁を感じさせない話しやすい雰囲気だ。

      相澤氏:「我々が大きな場の空気を作る意識はしていますが、テーブルごとの細やかな距離感の調整は、先生たちが本当に上手い。学生と同じ目線に座り、対話してくれるからこそ、学生たちも萎縮せずにいるのだと感じます。」

      三浦氏:「本当にそうですね。程よい距離感で、大人だからといって上から行くのではなく、先生たちはしっかり学生の懐に入って、同じ目線で対談しながらやっていますよね。」

      相澤氏:「クライアントとのワークなら最短距離の正解を求めますが、学生が相手なら、まずは彼らの発想を信じて伴走してみたい。今回のプロジェクトは西公園を良くすることと同じくらい、学生たちがどう育つかという『学び』そのものに価値があると考えています。」

      大人が正解を押し付けるのではなく、同じ目線で向き合い、失敗を恐れずに挑戦できる”余白”を担保する。こうした大人たちの徹底したサポートがあったからこそ、学生たちは自律的な一歩を踏み出すことができたのだ。「西公園をよりよくする。」という目的のもと、授業の枠を超えて公園の活性化へ参加した学生たち。それは単なる手伝いではなく、プロジェクトを自分事として捉え、自ら動き出した決定的な瞬間であった。


      若者たちへの期待と未来像。

      最後に対談は、これからの街を担う若者たちへのメッセージへと移る。三人が共通して願うのは、学生たちが自らの足で社会へ踏み出していくことだ。

      三浦氏:「主体的に自分から地域に入っていってほしいです。最初は西公園を知らなくても、ワークショップや出会いを通して少しでも西公園を考えてくれただけで価値があります。長い目で見たら、誰もが自分の地元や育ったところがある。いつかそういうところのまちづくりに携わってもらえたら嬉しいですね。」

      相澤氏は大人の責任として、『挑戦の場』を用意し続ける覚悟を示す。

      相澤氏:「場は提供しているので、まずは本気でチャレンジしてみてほしい。やってみた方がいいことが多いんだと気づかせるのは、我々大人の責任だと思っています。学生たちも、やるんだったら本気でやってそこから自分で判断した方がいい。わからなければやるしかない。そうじゃないともったいないですよ。」

      松本氏は、特に大学という枠組みの中にいる東北大生へ、視線を日常の豊かさへと向けるよう促した。

      松本氏:「インターネットだけの狭い世界の中だけで考えるのではなく、いろんな社会や人とのつながりの中で考えていくことを大事にしてほしいです。東北大学は今、グローバルや世界ばかりに目を向けていますが、実は公園という日常にも豊かな世界が広がっています。この西公園を通して、自分たちの足元にも実はすごく豊かな世界があるんだと感じ取ってもらえたらと願っています。」

      産学官という異なる立場の三人が専門性を持ち寄り、若者の学びを支えている。成果物を作ることだけでなく、本プロジェクトにおけるプロセスの中での出会いや、物事を自分事として捉える力を育むことこそがこのプロジェクトの真の価値である。フィールドワークやワークショップでの一つ一つの経験が、若者の視野を広げ、社会への関わり方を変えていく。そして大切なのは、一歩踏み出してみることだ。そこには思いもよらない発見が待っている。西公園の未来を描くのは、若者たち自身である。そしてその挑戦を支える三人の想いこそ、新しい学びのかたちを創り出しているに違いない。


      Text:Sakuya Yasuda
      Photo :Yuki Suzuki

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