Interview
2026/4/22
仙台市青葉区にある西公園は、2025年に開園150周年を迎えた歴史ある公園だ。広大な敷地には季節ごとに香りも色合いも変化する草木が広がり、川のせせらぎが聞こえ、神社や飲食店まで点在している。しかし、若者が公園でゆっくり過ごす姿をあまり見かけないのが現状だ。「昔は公園で遊んでいたけれど、最近は全く足を運んでいない。」「そもそも公園で何をしたら良いのかわからない。」そう思って、なんとなく公園から足が遠のいてしまう若者も少なくないのではないか。
ただ実は、西公園の周辺には個性豊かな飲食店が多く並んでおり、テイクアウトができるお店も充実している。今回はその中から3軒を訪れて店主たちにお話を伺った。焼きたてのパン、丁寧に焙煎されたコーヒー、フレッシュなフルーツを使ったアサイーボウル。それぞれの味を目指して、もしくは、それぞれの味を手にして、ぜひ西公園へ向かってみてはいかがだろうか。

西公園からほど近い場所に、『まいにちのパン 日々』はある。SNSやWebサイトで目を引くのは、手描きの温かみあふれるイラストと種類豊かなパンの数々だ。暗めの壁紙に柔らかな照明。店主である新山氏の妻が、『昔のおばあちゃんちの洋間』をイメージしてデザインしたというその空間は訪れる人をじっと惹きつける。SNSに並ぶ愛らしいイラストも、すべて妻が手がけている。
お店はもともと、宮城県古川エリアで営業していた。新山氏に仙台市内に移転した経緯を尋ねると、現在の場所を初めて見た瞬間に即決した話と共に語ってくれた。
新山氏:「移転先の店舗を探していて、実はここが1軒目だったんですよ。いろんな店舗あったんですけど、この場所でやってる自分たちのイメージが湧いて、それで即決しました。」
現在の店舗の空間に出会った時の直感が、今の”日々”を作り上げたのだ。

写真:新山氏
実際に、パンを買ってそのまま西公園へと向かう客も少なくないという。
新山氏:「温かい時期になると『西公園でこれから食べます。』というお子さん連れのお客さん、あとはお昼休みにパンを買って行かれる方も多く結構いらっしゃいます。」
新山氏自身も、暖かい季節には娘と西公園に出かけると目を細めながら語る。
新山氏:「川が近いことと、場所がとても広いので多くの楽しみ方ができますよね。」
人気商品は『シナモンロール』、『サレ(塩パン)』、『クリームドーナツ』など。季節によってラインナップは変わるが、どれも手に取ってそのまま公園でゆっくりと味わいたくなるものばかりだ。外部のマルシェや学校などへの出張販売を積極的に行い、少しずつ輪を広げているという。もし西公園でのイベントに出展する機会があれば「ぜひぜひ。」と出店に対して前向きな反応を笑顔でしてくれていた。


≫店舗情報『まいにちのパン 日々』
場所:宮城県仙台市青葉区立町21−5 ライオンズマンション西公園第2 1F
営業時間:火~土曜 10:00-16:00( 売り切れ次第終了 )日曜・月曜 定休日
西公園と道路を挟んで向かい側、1978年創業の『松本珈琲店 Matsurica-まつりか-1978』は、仙台市の中でも指折りの歴史を持つ自家焙煎コーヒー専門店だ。店名の『茉莉花(まつりか)』は、コーヒーチェリーが実をつける前に咲く白い花の香りがジャスミンに似ていることに由来する。店頭のドアにあしらわれたロゴマークもジャスミンの花をモチーフにしたものだ。オープン当初には、現在店主である松本氏の母がお店前の花壇にジャスミンの花を植えていたという。
創業当初は一般的な喫茶店と同様にトーストやコーヒーフロートなども提供していたが、開業10年目に自家焙煎へと完全に切り替えた。他のメニューを省いたことでよりコーヒーに集中することが可能となり、世界約65か国の産地から厳選した豆を用いた一番良いコーヒーをお客さんに提供するようにしたという。松本氏は東京での仕事を経て店を継いだ。引き継いだ当初は昔からの常連客が中心だったが、近年は若い世代の来客も増えているという。
松本氏:「新しい建物はお金を出せば建てられると思いますが、お客さんが作った空間はなかなかお金で作れないじゃないかと思います。そういうことも分かって来られる方が、大学生も含めてすごく多いですね。」
年月をかけて積み上げられた空気感が、時代を超えて現代の若者を惹きつけているのだ。

写真:松本氏
松本氏は毎日、西公園通りを歩いて出勤する。その日の公園の香り、色合い、川のせせらぎの音—。移り変わる五感の情報を自身の体調管理のひとつとして意識的に感じ取るという。
松本氏:「桜の時期だとお店から広瀬川沿いの桜並木が少し見えたりと、景色がすごくいいところだと思います。コーヒーも、例えば同じコーヒーでも店内で飲むのと外で飲むのとでは感じ方が違います。外に行けばいろんな香り、音、景色が入ってくる。それでやっぱり味わいも変わってくると思います。」
そんな松本氏が淹れるコーヒーを店内の窓から西公園を眺めながら味わう。それだけでいつもとは少し違う時間が流れ始める。1978年の創業から西公園と共に歩んできたこのお店には、積み重なった歴史がそのまま空気になって漂っているようだ。もしかすると若者の中には、「コーヒーはハードルが高い。」と感じる人もいるかもしれない。しかし、松本氏の穏やかな人柄と丁寧に淹れられた一杯はそんな不安をいつの間にか忘れさせてくれる。西公園のすぐそばで、心地よい時間を過ごせる場所がここにある。


≫店舗情報『松本珈琲店 Matsurica-まつりか-1978』
場所: 宮城県仙台市青葉区立町22−14
営業時間:月~土曜 10:00-17:00 日曜・第三月曜定休日
アサイーボウルやグリークヨーグルトを中心とした『lively』は、健康と美容をコンセプトに掲げるお店だ。姉妹店としてエステサロンも経営しており、『内側からきれいに。』という思想が店づくりの根底にある。
店主である小野氏がこのお店を始めたきっかけは、ひとり時間の大切さを自分自身が体感していたことだった。
小野氏:「私自身が、一人でお出かけすることがすごい好きで、居心地いい時間を過ごせる時間を休みの日に取って過ごしています。そうした中で、お客様にも自分みたいな存在が店に来た時にゆったりと過ごせるようなお店を自分も作りたいなというところからこのお店をオープンしました。」
店のドアにあしらわれたレモンのデザインも印象的だ。海外のフルーツをメインとしたお店に着想を得て、自家製レモネードとともにスタートしたこのお店の出自を、今もさりげなく伝えている。

写真:小野氏
メニューの特徴の一つとして、季節の新鮮なフルーツを使った期間限定商品の多さがある。それは毎朝市場へ足を運び、その時手に入る果物でメニューを構成するという。
小野氏:「フルーツは絶対使うようにしながら、フレッシュさや新鮮さを伝えられるような期間限定のメニューはいつもスタッフたちと話し合いながら作っています。体を気遣うという軸は変えずに、体に優しいもので新メニューも考えてます。」
「夏の商品のイメージは強く冷たい。」というアサイーの印象を補完するために、2階では温かいカレーなどの食事メニューも加わり、幅広い客層に対応するようになった。
仙台駅から少し離れた場所にあえてお店を構えたのは、「ちょっと外れたところの方が個人的にすごく好き。」という小野氏自身の感覚からだった。ここにはSNSを通じて来店する客が多く、20代後半から30代を中心に、制服姿の学生からサラリーマンまで幅広い層が訪れる。小野氏も休憩時間には自ら西公園へ散歩に出かけ、自分で淹れたコーヒーを片手に公園を歩くのが日課だという。
小野氏:「西公園には飲食店があったり、神社もあったりしますよね。色んな利用の仕方してる人が西公園に訪れているのを眺めてます(笑)。」
公園で”眺める”という楽しみ方を小野氏自身が日々実践している。アサイーボウルをテイクアウトして、西公園のベンチに腰を下ろし、行き交う人や木々の揺れをただ眺める時間―。そんな午後の使い方がこのお店から始まるのもきっと良い時間の過ごし方である。


≫店舗情報『lively』
場所:青葉区大町2丁目11-35-102
営業時間:水曜~月曜8:00ー20:00( LO19:30 )火曜定休日
今回話を伺った3つのお店は、それぞれ異なる言葉で西公園への想いを語ってくれた。娘と手をつないで向かう公園、四季を感じる街の空気、散歩がてら立ち寄れる距離感―。西公園のすぐそばにお店を構えることを、誰一人として”偶然”とは思っていないようだ。焼きたてのパンを袋に入れてもらい、香り高いコーヒーを手に、あるいはカラフルなアサイーボウルを抱えて西公園に向かう。もしくは、それらを目指して公園から足を向けてみる。ベンチに座っても、芝生に腰を下ろしても、川沿いをのんびり歩いても構わない。『西公園に来る理由』は思っているよりずっとシンプルでいい。
150年の歴史を持つ西公園が、あなたの日常の中に少しだけ入り込んでくる。その最初の一歩は、仙台市のどこかできっとあなたを待っている。
Text:Yukako Ota
Photo:Yuki Suzuki
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