Project
2026/3/25
春の柔らかな陽光が、杜の都・仙台を優しく包み込む2026年3月14日。 西公園から徒歩15分ほどに位置する青葉区中央市民センターの一室では、ある熱気溢れるプロジェクトが佳境を迎えていた。それは2025年4月に始動した、仙台市青葉区若者社会参画型学習推進事業『西公園ブランディングプロジェクト』である。
全24回をかけて開催を予定している本プロジェクトもいよいよ折り返し地点。前回の第11回定例会では、若者たちの手によって『若者が五感で楽しめる秘密基地』というブランドテーマの『パーパス』と『ビジョン』が定義された。そして今回の第12回定例会で挑むのは、ブランドコアの最終ピースである『コンセプト(提供価値=WHAT)』の言語化だ。
この日は、プロジェクトの行く末を見守る心強いゲストたちが顔を揃えた。青葉区役所からは谷田至史青葉区長(以下、谷田区長)をはじめ、熊谷祐二郎副区長、降幡賢太郎公園課長。さらに、大学教授は松本大氏(東北大学)、岩田京子氏(宮城学院女子大学)、鈴木理仁氏(仙台白百合女子大学)の3名、そして仙台市市民活動サポートセンターの佐藤司館長までもが若者たちの輪に加わった。
「難しい言葉は禁止!綺麗にまとめない!質より量!」
ワークショップのルールが告げられると、谷田区長を始めとする大人たちは柔和な笑みを浮かべ、若者たちと同じように付箋を手に取りペンを走らせた。そこには役職も年齢も関係なく、ただ『西公園の未来』を等身大で語り合うフラットな対話の土壌が生まれていた—。

ワークショップはまず始めに3つのステップで進行した。作業としては、第11回までに若者たちのアイデアから紡ぎ出された『五感』、『秘密基地』、『パーパス・ビジョン』の定義たちを羅針盤に、西公園がもたらす「具体的な価値(イイコト)」を付箋に書き出していく。
この章では、各ステップで飛び出した若者たちのピュアで力強い言葉たちを以下に紹介する。
<五感の定義>
『豊かな自然と四季を、全身でゆったり味わうこと。視覚:四季の景色を楽しむ。聴覚:心地よい自然音を聞く。嗅覚:季節の香りを感じる。味覚:外の空気と食事を味わう。触覚:風や自然の温もりに触れる。』
<若者意見>
遊んでいる人たちの声を楽しむ。/花の香りを楽しむ。/ピクニックで美味しいものを食べる。/自然音でリフレッシュ。/季節のにおいを感じる。/こどもや犬を見て楽しむ。/気持ちよく読書ができる。
<秘密基地の定義>
『「好き」を自由に楽しめる、自分たちだけの変幻自在な理想の場所。』
<若者意見>
知らない人を招く。/秘密のデートができる。/特別感を楽しむ。/世間のしがらみから離れる。/童心に帰れる。/人と集まって同じ空間で過ごす。/いつでも行くことができる。/ちょっとだけ悪いことをする。
<パーパスの定義>
『若者が五感と自然の中で自分自身と向き合い、”好き”と”動き出す力”を自らの手で創り出していける場所として、西公園は存在する。』
<ビジョンの定義>
『五感と自然の中で素の自分と向き合い、”好き”と”挑戦”を自らの手で創り出した若者の熱が人から人へと広がり、西公園を仙台の若者文化の中心へと変えていく。』
<若者意見>
前を向いて過ごせそう。/それぞれのスキを知ることができる。/多様な人々とのつながる機会と場所に訪れることで人として成長できる。/自分が好きなものを発信できる。/地域への関心が高まる。/やってみたいことやりたいことが見つかる。/自分の力を試せる。/自分には周りといろんなことができると思える。
若者も行政のリーダーも大学教授も、同じ目線で付箋を見つめて西公園を自分ごととして熱心に思考を巡らせる姿がそこにはあった。その光景は、まさにこれからのまちづくりに不可欠な”共創のカタチ”を象徴していた。
大量に出された付箋を基に次に若者らが挑んだのは、今出した意見をブランディングフレームワークである『3つの価値』へと整理して、それを一言づつにまとめ上げる作業だ。その3つとは、『機能的価値』(どんな環境や体験ができるか?)、『情緒的価値』(どんな気分になれるか?)、自己表現価値(どんな自分になれるか?)である。
この分類作業に入ると、会場の熱量はさらに一段ギアが上がった。当初は着席して慎重に筆を動かしていた一同だったが、議論が白熱するにつれ、気づけば全員が立ち上がり、自然と模造紙を囲み立ち上がっていた。
「これは『機能的価値』じゃなくて『自己表現価値』だよね。」
「この意見はどこに当てはまる?」
そんな声が飛び交う中、若者も大人たちも引き続き目の前の付箋を真剣に見つめながら、付箋を貼っては剥がしてまた別の場所へ貼り直すを繰り返した。その試行錯誤のプロセスは、バラバラだった個人の想いが一つの『コンセプト(提供価値=WHAT)』として段々と結晶化していくようでもある。

<機能的価値>
一人でも二人でもみんなでも。のんびりとゆっくり過ごしたり、交流したり、遊んだりできる。
<情緒的価値>
嫌なことから離れられてリフレッシュでき、毎日の生活がワクワク楽しくなるような特別感。
<自己表現的価値>
情報に左右されず、自由に好きを追求したり、ちょっとだけ悪いことをしたりすることで、毎日を楽しいものとし前向きに行動しながら自分らしく過ごせたり新しい自分を発見したりする秘密基地。
<機能的価値>
使い方はその「人」次第であり、自然を近くに感じられ、多くの人に開かれている。
<情緒的価値>
心が安らいでリラックスでき、自分をリセットできる。
<自己表現的価値>
素を出せたり、好きを大切にできたり、自分の人生を自分事として経験できる。
<機能的価値>
自然豊かで目的いらない場所。
<情緒的価値>
ありのままを受け入れてもらえる。
<自己表現的価値>
自己肯定が進み明日の活力を得られることでまた来ようと思える。
休憩を挟み、会場には再び心地よい緊張感が漂う。そしてついに、この日最後のミッションが下された。それは先ほど整理した『3つの価値』をすべて包み込み、西公園の存在意義を定義する『コンセプト(提供価値=WHAT)』を一言で宣言することだ。
各グループが悩み、削ぎ落とし、ようやく導き出した答えは以下の通りである。
グループA:
一人でも二人でもみんなでも「好き」を自由に楽しむ特別感。
グループB:
心のとなりにある”好き”をもちよる公園
グループC:
心のサウナ
これらの言葉は、単なるポスターに躍るキャッチコピーではない。若者たちが西公園という広大なフィールドを舞台に、「ここでしか得られない提供価値の核心とは何か?」を、自らの感覚を研ぎ澄ませて言語化した結晶である。そして最後の全体発表の瞬間、谷田区長を始めとする大人たちも深く頷きながら若者たちの言葉に惜しみない拍手を送った。自分たちが生み出した言葉が、地域の未来を形作るものへと変わっていく。その自覚と誇りは若者たちの表情をより一層頼もしく変えていた。

さらに、今回のワークショップでは自覚と誇りがアップデートされただけではない。熱狂が醒めやらぬ中で回収されたアンケートには、「行政の方が入ることで新しい視点を学ぶことができて面白かった。」「大人の方が場を盛り上げることが上手で楽しかった。」という言葉があり、大人たちの振る舞いや言語化のプロセスから若者たちが多大な刺激を受けていたことがわかる。
120分の濃密な時間が終わりを迎える頃、会場は達成感に包まれていた。笑顔でワークショップを完走した谷田区長は閉会式の挨拶で参加した若者たちを真っ直ぐに見つめ、こう語った。
「自分が若い頃に、このようなプロジェクトがあったらぜひ参加したかった。」
その言葉は、同じテーブルで付箋を書き、時に悩み、時に笑いながら模造紙を囲んだ同志への心からのリスペクトであった。行政のリーダーが若者たちの挑戦を「羨ましい」と感じるほどの熱気。それこそが、この場所で生まれるエネルギーの正体なのだ。
今回の第12回定例会を経て、西公園のブランドコアの全てが定義されたこととなる。しかし、プロジェクトはここで終わりではない。次なるステップは、これらをどうやって形にしていくかの戦略設計である。1年という月日を駆け抜け、土台を築き上げた若者たちが描き出す戦略とは一体どのようなものになるのだろうか。彼らが仕掛ける『若者が五感で楽しめる秘密基地』。その全貌が仙台の街に現れる日は、もうすぐそこまで来ている。
Photo:kensuke Miura
Text:Yuki Suzuki
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