西公園の一角から定禅寺通のシンボルへ。仙台市民図書館が紡いだ『知』の物語をタイムマシンのように巡る。 

      • History

      • Interview

      2026/3/18

      仙台市青葉区にある西公園は2025年で開園150周年という大きな節目を迎えた。現在、この広大な緑地は、『市民の憩いの場』として多くの市民に愛されている。この仙台市のシンボルとも言える西公園が、仙台の文化と教育を支え続けてきた歴史を有する地であることをご存じだろうか。かつてこの公園の一角には、仙台市民図書館(以下、市民図書館)や天文台、市民プールが存在していた。中でも市民図書館は、現在『せんだいメディアテーク』内に設置されており、市民の『知』の拠点として定着しているが、その歴史を辿るとその原点は西公園の豊かな自然の中にある―。

      2026年2月13日。市民図書館と西公園が歩んできた歴史と、両者の関係性を探るべく、西公園時代の市民図書館で働いた経験のある、市民図書館奉仕整理係長の吾妻由美氏(以下、吾妻氏)と仙台市若林図書館館長の村上佳子氏(以下、村上氏)にお話を伺った。成長し続ける市民図書館の「過去・現在・未来」と図書館を支えてきた二人の想いをお届けする。

      写真:左側から村上氏 吾妻氏


      【過去】西公園に刻まれた第一歩。市民の切実な声から生まれた文化施設。

      市民図書館が西公園の地に誕生したのは、昭和37年10月27日のことである。 その背景には、戦争という悲しい歴史があった。昭和20年の戦災によって仙台の中心部は壊滅的な被害を受け、当時市内唯一の公立図書館であった宮城県図書館も焼失した。戦災復興の中、昭和24年に宮城県図書館が再建されたものの、仙台市独自の図書館はなく、宮城県図書館のみで市民のニーズに応えるには限界があった。

      吾妻氏:「やはり宮城県図書館に皆さんが集中していたので、仙台市の方でも市民の方から図書館設立を要望する声が高まったようです。」

      昭和29年以降、各種団体から仙台市へ図書館設置を要望する請願書が相次いで提出された。市民の声も後押しとなったことで市議会が動き、昭和35年に図書館建設準備費が計上され、翌36年11月に着工。昭和37年10月27日に、広瀬川河畔の桜ケ丘公園(現、西公園)に待望の『市民図書館』が誕生した。

      市民図書館(西公園内)
      写真提供:仙台市戦災復興記念館

      西公園という立地が選ばれた背景について吾妻氏は以下のように説明する。

      吾妻氏:「広瀬川の近くの、静かな環境の中で図書館を、という意図があったのだと思います。」

      開館当時、市民図書館は熱気に満ちていたようだ。成人室や子ども室、軽読書室等が設置され、整理券を求めて市民が並ぶほどの盛況ぶりだった。3階に設置された青少年室には、当時の住宅事情から静かな自習場所を求める学生たちが殺到した。

      図書館サービスとして馴染みのある貸出であるが、市民図書館での本の貸出が始まったのは、開館から約10か月が経過した翌年7月のことだった。 まず児童書の貸出からスタートした。 当時はコンピュータ導入前の時代。貸出は一冊ずつ手作業でカードを処理することで行われ、個人貸出は一人2冊一週間であった。

      吾妻氏:「最初は本の数が少なかったので、貸出ができなかったそうです。」

      村上氏:「そうですね。それでも子どもの本を早くから貸し出していますね。子どもの本を貸せば、それを借りに行きたいという大人の利用にも繋がっています。」

      その後、段階的に貸出対象や貸出冊数が広がり、貸出サービスが定着していく。また、貸出室を一階に移したり、閲覧室を増築するなど読者にふさわしい環境づくりを行なったことで昭和50年頃から蔵書数・貸出冊数が急激に伸び、昭和57年には総貸出冊数が延べ70万冊を超えた。昭和50年代から60年代頃に入職した村上氏と吾妻氏は、当時の様子を鮮明に記憶している。

      村上氏:「玄関を入ると左手に子供のコーナー、右手に一般書がありました。本がどんどん増えていき、書架が溢れかえっていたのを覚えています。2階にあった本の重みに耐えきれず床に亀裂が入ってしまい、慌てて1階に本を下ろしたというエピソードもありました。」

      吾妻氏:「夏の時期、西公園で『緑陰図書館』をしたこともあります。木陰で読み聞かせや貸出をしたり。子ども達がたくさん集まっていましたね。」

      市民図書館では、昭和40年代からブックモービル(移動図書館)の巡回サービスも開始している。吾妻氏もブックモービルに乗り、図書館から遠く離れた地域で暮らす市民に本を届けた。村上氏は目録(本の情報を記したもの)作成業務も行い、仙台市民の読書環境整備に寄与してきた。


      【現在】静寂の緑から賑わいと情報の拠点へ。市民図書館が『せんだいメディアテーク』へと移転する。

      西公園の象徴のひとつであった図書館は、平成13年に定禅寺通の『せんだいメディアテーク』(以下、メディアテーク)内へと移転した。 理由は建物の老朽化と、地下鉄東西線のルートに関わる土地の問題、そして資料の保存スペースが限界に達していたことだった。

      移転先の敷地は定禅寺通沿い。 当時の定禅寺通は今ほど華やかな印象ではなく、西公園に向かうまでの道筋もどこか地味な雰囲気が漂っていたという。 しかし、メディアテークが定禅寺通に新設されることが決まり、新たにまちづくりが始まった。仙台の新しいシンボルにふさわしい施設にするため、専門家だけではなく市民のアイデアや意見を募り、設計競技が行われた。そして建築家・伊東豊雄氏の設計によるメディアテークの誕生は、街の風景を劇的に変えた。

      村上氏:「西公園の図書館にはエレベーターすらありませんでした。私たち職員は重い本の箱を抱えて3階まで運んだり、書庫になっている別棟まで新聞縮刷版を取りに行ったりした記憶があります。移転はそうした限界があったという経緯がありますね。」

      市の中心部という地理的条件や施設の魅力によって、市民図書館の利用者は飛躍的に増加した。メディアテークという多目的な情報センターの中に図書館が組み込まれたことで、 公園の中にあった『静かな読書の場』は、都市景観と一体化した『賑わいと情報の拠点』へと進化したのである。そして場所こそ離れたものの、西公園と市民図書館の関係が途絶えたわけではない。現在、晩翠通から定禅寺通、そして西公園にかけて一体的なまちづくりが行われている。市民図書館はその流れを生み出す大きな役割を担っている。

      村上氏:「メディアテークに来館するお客様の中で、やはり図書館に来るお客さんが一番多いです。この人の流れが、定禅寺通や西公園へと繋がっていく。図書館の場合、ご家族で利用されることもありますが、一人ひとりの個人の利用もあります。それぞれが自分の関心を調べる、読む、楽しむという個人的な営みの流れや塊が図書館にあるように感じていますね。」

      また、図書館の4階にある郷土資料コーナーには、150周年を迎えた西公園に関する資料も含め、膨大な地域資料が所蔵されているという。

      吾妻氏:「市民図書館は参考図書や郷土資料が豊富にある図書館なので、他の図書館で見つからなかった答えを探してここにいらっしゃるかたもいます。仙台藩に関することをお問い合わせいただくこともありますね。」

      図書館では、郷土史講や仙台のタウン誌の周年に合わせたイベントも開催され、 地域の歴史を掘り起こす特集展示などは、普段意識することのない「街」を市民が再発見する貴重なきっかけとなっている。


      【未来】本がある暮らしの可能性と、市民図書館がデザインする仙台の明日。

      これからの市民図書館は、どのような役割を果たしていくべきか。市民図書館を支えてきた二人には図書館に対する熱い思いがある。近年、公共図書館には貸出のみならず、あらゆる人の学びや地域課題の解決を支援する役割も求められている。そのため、市民図書館では障害がある方への支援のための音訳資料の提供や、郵送による資料の貸出、調べ物のサービスを行うレファレンスサービス、インターネットを使った情報の提供などにも力を入れている。

      村上氏:「図書館にはいろいろな目的を持っていろいろな人が来ます。お金をかけずに一日いられる『居場所』があるのはとても大きいところだと思うんです。図書館は”知の情報拠点”とも言われていますけども、困ったことがあったらまずここに来ればいいという場所になれたらいいと思います。」

      吾妻氏:「図書館は居場所になったり、学びの場になったり、ボランティアさんの生きがいの場になったりと、これから色々な役割があると思っています。」

      誰もが日々を暮らしていく中で、何かを知りたい、あるいは楽しみたいという想いを抱いて生きている。図書館はそのような想いを満たしてくれる何かがある。しかしながら、全国的に見ると地域によって図書館環境に差が生まれていたり、遠隔地に住んでいることで利用したくても利用できない人々が存在しているという現状もある。そのため公共図書館は、学校図書館や公民館、市民センターとの連携にも力を入れ、まちと共に図書館自体も成長していく局面にあるのだ。


      ここに来れば何かが見つかる図書館へ。誰でも利用できる『知』の聖域としての歩み。

      インタビューの最後に、お二人は市民に向けて温かなメッセージを寄せてくれた。

      吾妻氏:「年齢や国籍、人種も障害の有無も問わず、いつでもだれでも利用できるのが図書館です。今は電子図書館があって24時間アクセスすることもできます。ぜひ使ってもらえると嬉しいなと思います。私は電車で本を読むことが好きですが、皆さんにも自分が好きな場所で、自分だけの読書を楽しんでもらいたいです。」

      村上氏:「図書館は本の中に身を任せられるような体験ができる場所だと思います。いろいろあると思うんですが、どんな立場の人でもここに来れば何かが見つかる、そんな場所でありたいと思いますね。私は大人の方にも絵本をお薦めしたいです。大人でも絵本を読むことで何かを感じられることがあると思います。」

      150年の歴史を持つ西公園と、そこから羽ばたいた市民図書館。 両者には全ての人を温かく受け入れ、見守ってくれるという共通点がある。市民と共に歩んできた西公園と市民図書館がこれからどのように成長し続けていくのか非常に楽しみである。ぜひ読者の皆さんもふとした時に市民図書館に立ち寄って本を眺めたり、西公園を訪れてみてはどうだろうか。今まで気づかなかった新たな発見が得られるかもしれない。

      参考文献:
      仙台市民図書館(1993)『仙台市図書館30周年記念 30年の歩み』仙台市民図書館 58p.


      About 仙台市民図書館

      詳しい情報は下記のホームページをチェック!
      URL:https://lib-www.smt.city.sendai.jp/page_id147


      Text:Mashiro Nagano
      Photo:Yuki Suzuki

      Pick Up

      「昔、校舎は西公園にあった。」立町小学校と西公園がつくり出す150年の絆が紡ぐ未来。

        • History

        • Interview

        2026/4/01

        西公園の一角から定禅寺通のシンボルへ。仙台市民図書館が紡いだ『知』の物語をタイムマシンのように巡る。 

          • History

          • Interview

          2026/3/18

          偶然の一歩ですら未来を変える。立場の違う2人による対談から見えたプロジェクトの価値 

            • Interview

            2026/2/19

            これからの未来へ向かって。西公園開園150周年記念フェスに込められた想い

              • Interview

              2025/12/31

              若者をどう育成するか? 仙台・西公園ブランディングプロジェクトに見る産学官三者の情熱対談。

                • Interview

                2026/4/08

                仙台城跡には「何もない」は本当か?城跡から伝わる伊達政宗公が描いた平和への祈りと未来への継承

                  • History

                  • Interview

                  2026/3/11

                  〈PROJECT REPORT #12〉青葉区長も参戦!若者が付箋で描く西公園の提供価値。

                    • Project

                    2026/3/25

                    仙台のお伊勢様が見守った150年が物語る西公園と櫻岡大神宮の深い絆

                      • Interview

                      2025/12/24

                      若者と大人二つの視点が交差する。世代を超えた対話から見つめる西公園 

                        • Interview

                        2025/12/07

                        大手門をくぐる新体験。2036年に復元される仙台城正門が眠れる価値を呼び覚ます

                          • History

                          • Interview

                          2026/2/11

                          西公園ブランディングプロジェクトのはじまりに迫る |三浦氏 × 木村氏座談会 

                            • Interview

                            2025/10/01

                            〈PROJECT REPORT#10〉産学官連携で挑んだ『若者が五感で楽しめる秘密基地』の定義づけ

                              • Project

                              2026/1/28

                              熱意が集結した本気の産学官連携関係者が想い描く『人づくり』と『まちづくり』 

                                • Interview

                                2026/1/21

                                「実はいろいろある」150年の時間が折り重なる、西公園という都市の "レイヤー"

                                  • Interview

                                  2025/11/26

                                  SLに込められた想い一。小学生の手紙から始まった歴史の伝承

                                    • History

                                    2025/10/29