Interview
2026/2/04
仙台市青葉区若者社会参画型学習推進事業である『西公園ブランディングプロジェクト』では、現在30名を超える若者たちが2025年に開園150周年を迎えた西公園の新しい価値を発信している。その西公園の近くには”定禅寺通”という『杜の都』を象徴する通りが位置する。その一つの通りに特化して活動する学生団体があることをご存知だろうか。その団体名は『ひまつぶし』である。
定禅寺通と西公園。どちらも仙台の『杜の都』を象徴する緑豊かな場所でありながら、若者たちにとっては心理的にも少し距離がある存在なのかもしれない。しかし、『ひまつぶし』の活動には定禅寺通と西公園が共に抱える課題を解く鍵が隠されているのだ—。
本記事では、『ひまつぶし』の代表を務める山形県鶴岡市出身、東北学院大学2年生の廣瀬樹生氏(以下、廣瀬氏)へのインタビューを通して、『ひまつぶし』に込められた想いや若者視点で描く定禅寺通の未来をお届けする。

写真:廣瀬樹生氏
『ひまつぶし』誕生の物語は、2024年夏に遡る。当時大学1年生だった廣瀬氏は、仙台市役所の1週間インターンシップに参加した。山形県鶴岡市という田舎町から仙台に出てきた彼にとって、仙台は憧れの都市だった。宮城県の紹介映像には必ずと言っていいほど定禅寺通が映る。ケヤキ並木が作り出す緑のトンネルの美しさに、高校時代から憧れを抱いていた。インターンシップでは定禅寺通のまちづくりや課題について学び、最終的にはプレゼンテーションを行った。そして最終日、市役所の担当者から思いがけない提案があった。
「せっかくならプレゼンテーションで話してくれたことを実際にやらないか?」
その呼びかけがきっかけとなり、インターンシップに参加したメンバーがそのまま学生団体を立ち上げることになった。当初は最大4人での活動だったが現在は5人体制。宮城大学3名、東北芸術工科大学1名、そして東北学院大学在学中の廣瀬氏という構成である。
廣瀬氏:「学校終わりやバイト終わりに、『疲れたな。じゃあ定禅寺通行こう!』とはなかなかならないですよね(笑)」
定禅寺通は『光のページェント』や『ジャズフェスティバル』といった大型イベントの舞台としてよく知られている。しかし、イベントがない日常においては、この通りを訪れる若者はそう多くない。イベント開催時には賑わいを見せても日常においてはただ素通りされてしまう場所になっているのだ。そんな現状を変えたいという想いが、実は団体名である『ひまつぶし』に込められている。せっかくならもっと面白いことをして定禅寺通をフラッと訪れる場所にしたい、暇つぶしがてら訪れてもらえるような場所にしたいと廣瀬氏は語る。一見すると怠惰な印象を与えかねない名前だが、そこには『日常の暇つぶしが、特別な体験になる場所』という明確なビジョンがある。そのビジョンは、『ひまつぶし』のキャッチコピーである『暇つぶし、だけど特別』に結実しているという。
廣瀬氏:「暇つぶしは何気ないただの日常の動作と思われがち。だけど、そんな日常の暇つぶしが定禅寺通では特別になる。そんな想いを込めました。」
何気ない日常の行為がこの場所では特別になる。そんなメッセージが、この団体の根幹を支えている。
『ひまつぶし』の活動は、定禅寺通に新しい風を吹き込んでいる。2025年の夏には『立町たちのみ』というイベントに参加し、中央分離帯を使って『定禅寺通思い出マップ』という企画を実施した。大きな地図を広げ、赤色の付箋には思い出エピソード、黄色の付箋にはおすすめスポット、青色の付箋には未来への想いを書いてもらう。自分だけの定禅寺通の思い出を地図上に貼り付けていく企画だ。廣瀬氏は、ブースに来てくれた人たちが笑顔で懐かしみながら書いてくれたことがとても印象に残っていると振り返った。
さらに、彼らの活動は新たな舞台へと広がった。2025年9月27日に西公園で開催された<みんなでつくる!西公園開園150周年記念フェス>の一角で『アウトドアシアター』を開催したのである。
廣瀬氏:「本当に難しかった。準備ももちろん大変だったけど、それ以上にその活動をどうやって拡散するか、どうやって地域の人を巻き込むかを考えることがすごく大変だった。それでも本当にやってよかったな。あのときは超楽しかったなと今は思います(笑)」

活動を通じて見えてきた定禅寺通の魅力と課題について、廣瀬氏は率直に語る。はじめに定禅寺通の魅力として挙げたのは『圧倒的な存在感』だ。勾当台公園駅から出た時に見える圧巻のケヤキ並木が最大の魅力だと廣瀬氏は語る。そして活動する中で新たに発見した魅力もあった。それは定禅寺通周辺で活動する経営者たちの定禅寺通に対する熱量の高さだ。しかし同時に大きな課題も見えてきた。それは”若者が来ない”ということだ。『学都仙台』と呼ばれる仙台には多くの学生がいる。しかし、定禅寺通まで足を運ぶ学生は少ないのだ。若者が感じる「仙台駅前で十分。」この感覚は、廣瀬氏自身も理解できるものだという。そしてこの課題は、実は西公園にも共通している。定禅寺通も西公園も、若者にとって『わざわざ行く理由』が必要な場所になってしまっている現状とも考えられる。だからこそ、若者を呼び込むことが『ひまつぶし』の使命であり、それは西公園ブランディングプロジェクトの課題とも重なっている。
活動を通じて得た最も大きな成果について、廣瀬氏は地域の人々との関わりを挙げた。
廣瀬氏:「大学生活を過ごしている中で、なかなか地域の大人、それこそ経営者や行政の方と接する機会は中々ない。そういう面では、まちづくりの第一線を走っている大人の方々と関わることができてよかった。大人と対等に意見を言い合って、イベントを開催できたことが、自分の人生においてとてもいい経験になりました。」
学生という立場でありながら、地域の第一線で活躍する大人たちと関われる。それは大学生活では得難い経験である。そして、活動を支えているのはメンバー全員に共通する『定禅寺通への愛』だという。『ひまつぶし』のように特定の通りに特化した学生団体は珍しい。だからこそ定禅寺通に対する愛は揺るぎない。
仙台のアイデンティティである『杜の都』。廣瀬氏はその魅力を、季節の移り変わりの中に見出しているという。ケヤキの木が多くあるからこそ定禅寺通は季節ごとに全く違った表情を見せる。そんな季節ごとに違った魅力を魅せてくれる定禅寺通だが、特に好きなのは秋だという。秋の紅葉や冬に差しかかった時に葉っぱが落ちてくる様子に非日常を感じるという。続けて、『杜の都』をどのように次世代に伝えていきたいかという問いには、明確な答えがあった。
廣瀬氏:「言葉として残すというよりは、やっぱり体感してもらいたい。まずは定禅寺通に来てもらって、この自然やケヤキ並木の存在感に触れ、杜の都を実際に肌で感じてほしい。」
また、定禅寺通と西公園の両者にある共通点について尋ねると、廣瀬氏は課題の類似性を指摘した。どちらも自然の豊かさを持ちながら市街地からアクセスしやすい場所にある。さらに、イベントの時こそ人は集まるが日常的に若者が訪れる場所になっていない。だからこそ、今後もしも西公園と関わるとしたらどんなことをしてみたいかというこの問いに、次は若者主体のイベントをやりたいと廣瀬氏は即座に答えた。定禅寺通で培った経験を活かし、若者が暇つぶしに訪れたくなる場所をイベントとして作りたいという。『ひまつぶし』がもつ定禅寺通への熱い想いは緩やかに西公園へも広がり始めている。
『ひまつぶし』が仙台の街や市民に伝えたいこと、それは今この場所が変わろうとしているということ、そして実際に訪れてほしいということだ。廣瀬氏は定禅寺通には行かないとわからない良さがあるとそう確信している。定禅寺通を訪れる人へのメッセージとして、廣瀬氏はこう語る。
廣瀬氏:「日々の喧騒を忘れて、定禅寺通の葉っぱの揺れる音を聞いてほしい。嫌なことも、やらなきゃいけない面倒くさいことも、全部一旦忘れて、本当に無の状態で歩いてみたり、ベンチに座ってみたりしてほしい。これが僕の考える定禅寺通の一番楽しむ方法。ぜひそれを実践してほしいです!」
この楽しみ方は、西公園でも同じように実践できるだろう。緑に包まれた静けさの中で、日常を忘れる時間を過ごす。それこそが『暇つぶし、だけど特別』という言葉の本質なのかもしれない。

2036年、仙台城の大手門が復元する計画が進んでいることもあり、西公園から定禅寺通一帯もこれから大きな盛り上がりを魅せようとしている。その先陣を切る形で、『西公園ブランディングプロジェクト』は進行中だ。そして『ひまつぶし』の活動もこうした大きな流れの中にある。行政だけでは発信しづらいことを、若者の視点から伝えていったり、地域の経営者たちの想いを若者の言葉で語ったりする。そして何より、自分たちが本当に愛する場所を同世代に届けようとしている。『暇つぶし、だけど特別』というこのキャッチコピーが示すように、彼らは日常と非日常の境界線で活動している。何気なく訪れた場所が、誰かにとって特別な思い出になる。そんな瞬間を生み出すために、5人の学生たちは活動を続けている。
最後に、改めて定禅寺通には多くの魅力が存在する。仙台駅前の賑わいとは異なる静けさの中にある豊かさ。ケヤキ並木が見せる四季折々の表情。そして何より、この場所を愛する人々の想い。『ひまつぶし』が紡ぐのは定禅寺通の新しい物語だ。これから若者の視点が、開園150年という歴史を持つ西公園に新しい息吹を吹き込み、定禅寺通とともに『杜の都』仙台の未来を描いていく。だからこそ、これからの仙台が創り出す物語が楽しみでならない。
Text:Rei Takahashi
Photo:Rei Takahashi/Yuki Suzuki
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