〈PROJECT REPORT#11〉『なぜ』と『どこへ』を言葉に。西公園ブランディングで若者が描くパーパスとビジョン。

      • Project

      2026/3/04

      2026年2月21日、冬の寒さが残る仙台市。西公園を舞台にした企ては、また一歩その解像度を上げようとしていた。前回の定例会から約1ヶ月経った今日に再び集まった若者たち。彼らの手元には、前回完成させた『若者が五感で楽しめる秘密基地』というブランドテーマの定義文が書かれた一枚の紙が置かれていた。その定義文は下記の通りである。

      『若者が五感で楽しめる秘密基地とは、忙しい日常から少しだけ抜け出して、四季の景色・音・香りを全身で感じながら、自分たちの”好き”を自由に創れる場所のこと。それが、西公園という変幻自在な理想の秘密基地。』

      これは前回の5つのグループの情熱を編み込んだ定義文だ。今日はここからさらにブランドテーマを深ぼるフェーズに入る。それは『パーパス(存在意義)』と『ビジョン(未来像)』の策定だ。ブランドのコアである2つの要素を、この日若者たちは言語化していく―。本記事は2025年4月に始動した仙台市青葉区若者社会参画型学習推進事業『西公園ブランディングプロジェクト』第11回定例会の記録だ。全24回の折り返し地点を前に、若者たちの学びがさらに熱を帯びていく様子をご覧あれ。


      『なぜ』と『どこへ』を問う。混沌とした思考を言葉に変える時間の幕開け。

      ワークショップの幕開けに際し、まず確認すべき重要な定義がある。それはパーパスとビジョンについてだ。ここでのパーパスとは、西公園が『若者が五感で楽しむ秘密基地』として存在する社会的意義を指す。つまり、「なぜ(Why)、今の若者とこの街の西公園に、それが必要なのか」という問いへの答えだ。対してビジョンは、その秘密基地がもたらす未来像を指す。その結果として「若者たちの未来はどう変わるのか(Where)」を描くものである。

      そして話はワークショップ本編へと移る。この日は4つのグループに分かれ、東北福祉大学の石塚裕子氏、東北大学の松本大氏、宮城学院女子大学の岩田京子氏、そして今回初参加となる仙台白百合女子大学の鈴木理仁氏が各テーブルに加わり、若者たちと共に議論を深めていった。前半戦のテーマはパーパスの策定だ。最初の一歩は『今の若者の欠乏を見つける』こと。模造紙の左下に、「現状の自分たちに何が足りないから、五感で楽しめる秘密基地が必要なのか」を考え、付箋を貼っていく。次のステップは『パーパスの言語化』だ。先ほど抽出した欠乏を解決するために、西公園はどうあるべきか。「私たちは〜のために存在する」という構文を用い、模造紙の左上を埋めていく。このプロセスで議論は一気に熱を帯びた。意見を交わし、言葉を選び、推敲を重ねる。あっという間の約45分のワークを経て、各グループの個性が光るパーパスが導き出された。休憩を挟んだ後半はビジョンの策定だ。パーパスを体現した秘密基地が、3年後、5年後にどのような情景を作っているか。ワクワクする未来を妄想する作業である。ここでは模造紙の右下に、実現した西公園で「若者が具体的にどう五感を使い、どう過ごしているか」を書き出す。最後にその情景を凝縮し、「〜な世界」「〜な公園」という形でビジョンを言語化していった。


      若者が西公園に託す4つのパーパスとビジョンとは—。

      2つのワークショップを経て、若者たちはグループごとに独自のパーパスとビジョンを導き出した。そこで提示された4つのパーパスとビジョン。それらは異なる角度を向きながらも、現代の若者が抱える『欠乏』に真っ向から向き合い、その解決策としての西公園の価値を言語化するものだった。

      ≫Aグループ

      パーパス:テンプレになりかけている生活を変える
      理由:「SNSの情報や既存の所属にとらわれて、周りの目が気になって、失敗ができないことから、行動範囲や視野が狭い。現状から離れて、開放的でありながら刺激のあるやりたいことを見つけるきっかけとなり、可能性を広げてくれるから。」
      ワークショップ意見:自ら考えて実行する力を育てるために/失敗を体験し成長できる場として存在する/人間の主体性が阻害されないために存在する/『やるべきこと』ではなく、『やりたいこと』を五感を使って思考・実行するための場として存在する

      ビジョン:若者たちが五感を使い、非日常に入りこめる公園
      理由:「決まりのある日常の人間関係や場所から離れて、一から楽しめる体験を通して、得られるもの(関係性、やすらぎ、つながり)があると考えられるため。」
      ワークショップ意見:もっと何か行われているのか発信されている公園/自然を楽しみながら休める公園/日常と非日常の間にある公園/公園というかたいイメージではなく、柔らかなイメージとしての公園

      ≫Bグループ

      パーパス:失敗を皆怖がる世の中で、挑戦の資源化
      理由:「秘密基地という場所だからこそ、失敗を恐れずに挑戦できるから。」
      ワークショップ意見:自ら考えて実行する力を育てるために存在する/失敗を体験し成長できる場として存在する/『やるべきこと』ではなく、『やりたいこと』を五感を使って思考・実行するための場として存在する/失敗が資源となるような遊びでの体験ができる空間として存在する

      ビジョン:アイディアと挑戦が伝播する非日常な公園
      理由:「日常から隔離された空間で自然を五感で感じることで、気持ちも普段よりスッキリして前向きになって挑戦が多く生み出されると考えたため。」
      ワークショップ意見:公園内の出来事が他者から提供されたものではなく、自分事として経験される空間/やりたいことに挑戦できる公園/匂いや音を感じて自分の世界へ入れる公園/自然を五感で感じ自分の好きを創れる公園

      ≫Cグループ

      パーパス:若者にも西公園にとっても出会いの場所
      理由:「若者には多様な人たちや自然環境との新しい発見や空間がないから。西公園には、多種多様な活動が少ないと感じるためこのような存在意義にしていきたい。」
      ワークショップ意見:若者が人目を気にせずに、はじける『場』として存在する/若者が知らない世界を知るきっかけとなる『場』として存在する/若者がリアルな人とのコミュニケーションが生まれる『場』として存在する/西公園はエネルギーを回復させるために存在する

      ビジョン:人間本来のアクティビティを目覚めさせる公園
      理由:西公園で五感を刺激され、様々な活動を通じて人間本来の活動力を取り戻すから。
      ワークショップ意見:若者が仙台市の中で一番好きな場所となる公園/若い人が自由に新しいことにチャレンジしている公園/若い人が中心となって多様な人の活動を演出している公園/ささやかなにぎわいがある公園

      ≫グループD

      パーパス:コンテンツなしで心を整え豊かにし、長くぼーっとできる
      理由:今はずっと情報が入ってくる。ぼーっとする時間もなく、頭を休める時間がないから。」
      ワークショップ意見:朝日など午前から自然を楽しみ生活リズムを作る場として存在する/自分の思考や心をまとめる時間を過ごすために存在する/心を無にして外を歩くことを楽しめる空間として存在する/スマホより楽しめるリアルな時間を感じるために存在する

      ビジョン:それぞれが自分らしく過ごせる公園
      理由:「何も求めず、求められないような空間・時間が必要だから。」
      ワークショップ意見:そこにいることで若者の心が豊かになる公園/思考を止め、この場所を出る時には頭がクリーンになっている空間/知らない人とコミュニケーションできる公園/前向きな気持ちになる若者が増えている空間


      若者の感性と大人の視点が混ざり合う場所で生まれた『言語化』というディープな学び。

      ワークショップのクライマックス。各グループのリーダーが登壇し、1分30秒という限られた時間の中で、研ぎ澄まされたパーパスとビジョンを発表した。言葉の一つひとつに、数時間の濃密な議論が宿っている。そして最後には、ブランディングのプロフェッショナルである株式会社BLUE SODA代表取締役 相澤総一郎氏からの実践的な視点からの総括を受け、本ワークショップは静かに、しかし確かな手応えとともに幕を閉じた。事後アンケートの結果は、参加者の満足度の高さを物語っていた。特筆すべきは、若者と大学教授という世代を超えた共鳴だ。「グループに入った先生の言語化の仕方がとても参考になった。」そんな声からは、アカデミックな視点と若者の感性が混ざり合い、ポジティブな相乗効果を生んだ様子が浮かび上がる。そして若者たちの自己省察もまた深い。

      「パーパスのグループワークでは言語化がうまくいったが、ビジョンの方がスムーズに進まなかった。アイデアは出ているもののの文章のつなぎや意見のまとめ方に工夫をしたいと思った。」

      「大人と一緒にグループワークを行うと自分にはない視点で意見を出してくれるのでとても刺激になるので楽しかった。」

      模造紙に向き合い、言葉を絞り出して言語化する。それは単なる作業ではなく、自分の奥底にある”何となく”を、誰にでも伝わる”言葉”へ変換する格闘だ。ワークショップで大人たちの視点にも触れながら思考の断片をつなぎ合わせていく。その試行錯誤の時間が、若者たちの視座を一段と高めたことは間違いない。


      次回、青葉区長参戦。

      第11回定例会を経て、若者たちは西公園のパーパスとビジョンを自らの言葉で考えだした。しかし、ブランディングという旅路はまだ終わらない。次なる第12回定例会では、ブランドの核となる『コンセプト(提供できる価値)』の検討へとステージを移す。そして、次回最大のトピックは、仙台市青葉区長がワークショップへ直々に参加することだ。青葉区のリーダーと現役の大学生。立場も年齢も見えている景色も異なる両者が同じテーブルを囲みフラットに意見を交わしたとき、一体どのような化学反応が起きるのだろうか。そんな期待が高まるこの西公園ブランディングプロジェクトは、これからも目が離せない。


      Text:Yuki Suzuki
      Photo:kensuke Miura

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