Project
2025/11/05
2025年9月20日土曜日。仙台市青葉区中央市民センターに、11名の若者たちが集結した。彼らが今向き合っているのは、〈西公園ブランディングプロジェクト〉である。このプロジェクトは2025年4月19日にキックオフ。仙台市青葉区若者社会参画型学習推進事業(以下「青葉区若者事業」)としては初となる『産学官連携』のもと、前例なき挑戦として動き出した。今回タッグを組んだ三者とは、仙台市青葉区、株式会社BLUE SODA、そして東北福祉大学をはじめとする大学機関だ。この三者が力を合わせ、今年で開園150周年を迎える西公園のブランディングに、若者たちが主体となって約2年間かけて取り組む。
しかし、これは単なる公園のブランディングではない。プロジェクトの背景には、主催者の『若者が社会を自分ごととして捉え、自発的・自主的に行動できる人になってほしい』という強い想いがあり、最終目標は、2027年に若者たち自身が導き出した成果を仙台市長や青葉区長へ直接発表することである。つまり、若者が社会を本気で考え、社会が若者を育む。そんな新しい循環を生み出す、壮大な挑戦なのだ。
そして今回、第6回定例会となるこの日は、西公園の強み・弱み・機会・脅威を徹底的に洗い出す本格的なフレームワーク、『SWOT分析』と『クロスSWOT分析』を用いて西公園の未来戦略を描き出した。その熱狂の一部始終を、ここにレポートする。

〈西公園ブランディングプロジェクト〉の第6回定例会は、前回までの学びの連続性の上に成り立っている。第5回定例会までは、マーケティングの基礎フレームワークである『3C分析』に取り組んできた。自社(Company)、市場(Customer)、競合(Competitor)という3つの視点(3C)から、西公園を取り巻く環境を徹底的に調査・分析。その結果、若者たちは西公園の情報を深く蓄積した。そして迎えた第6回。いよいよ、集めた"点"の情報を"戦略の線"に変えるため、思考を深める段階へと進む—。
講師は、株式会社BLUE SODA代表取締役の相澤総一郎氏(以下、相澤氏)が務めた。相澤氏は冒頭、市場環境を分析する『3C分析』から、戦略を導き出す『SWOT分析』と『クロスSWOT分析』への論理的な繋がりについて解説した。SWOT分析とは、西公園の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)の4要素を整理し、現状を客観的に捉える手法だ。そして、この4要素を組み合わせるクロスSWOT分析。この分析こそが、具体的なアクションを生み出すための“究極の兵器”なのだ。例えば、『強み』と『機会』を掛け合わせ、「我々の強みを活かし、この機会を最大限に活用する、どんな面白いことができるだろう?」と創造的なアイデアを生む。あるいは、『弱み』と『脅威』を直面させ、「この弱点を放置したまま、この脅威が来たら最悪だ。それを避けるための最低限の一手は?」と危機を回避する戦略を練る等、このように企業が実際に用いる本格的なビジネス手法を、自分たちの手で実践できる。若者たちの瞳には、プロの思考法を盗み取らんとする、前のめりの情熱が満ちていた。
10時15分、いよいよワークショップが本格的に始まった。まずはじめに、これまでの分析結果を思い出しながら、西公園の『強み』と『弱み』を付箋に書き出して模造紙に貼り出す。それはメンバー間で活発な意見交換を行いながら作業は進んだ。その後、1回目のグループシェアを実施。自ら貼った付箋一つひとつについて、「なぜそれが強みなのか」「なぜ弱みだと考えるのか」を、具体的な理由とともに全員が順番に説明した。
次は、外部環境の分析だ。個人ワーク2回目として、『機会』と『脅威』を付箋に書き出し、模造紙へと貼る。今まで取り組んだ『ユーザーインタビュー』や『競合分析シート』の結果を振り返りながら、各自3〜5個のアイデアを捻り出す。そして2回目のグループシェアでは、「なぜそれが機会なのか」「なぜ脅威なのか」を徹底的に説明し合った。
約30分間の濃密な作業を経て、各グループの模造紙は色とりどりの付箋で埋め尽くされた。この濃密な30分が、西公園の課題と可能性を鮮明に浮き彫りにした瞬間だ。
全グループの意見を集約すると、西公園の姿が鮮明に浮かび上がってきた。
強み(Strengths)
『 自然が多い/SLがあるという象徴性/地下鉄の駅が近いというアクセス性/敷地が広い/桜まつりなどイベントがあり集客力がある/使われ方の歴史があり、それを膨らませていける』
弱み(Weaknesses)
『仙台駅から遠い/遊具が少ない/若者がいるイメージがないという世代間ギャップ/歩道橋で区切られ敷地が一つにまとまっていない/広くてなにがあるか分からない/広すぎて使い方が散漫に見える/日差しと雨風をしのげるところがない/駐車場がない/ゴミや雑草がある』
機会(Opportunities)
『モルックをする人の間でひそかな人気/健康(ウォーキング)/おしゃピク/たき火などアウトドアの流行/仙台の観光スポットとしての紹介/日本に来る外国人が多い/体験活動が推進されている/フェス/こども連れが遊べる』
脅威(Threats)
『異常気象/日焼け/スマホやゲームが楽しすぎて外にでたくないというライフスタイルの変化/子供の公園離れ/少子化/仙台駅周辺で娯楽がすむ/勾当台公園、榴岡公園の活性化/花火やバーベキュー禁止のところが多い/熊』

後半は、いよいよクロスSWOT分析に突入する。「ここからが本番です」と相澤氏。整理した要因を掛け合わせ、未来のアクションをデザインする。4つの掛け合わせパターンに沿って、濃密なブレストが始まった。
【SO戦略】(強み × 機会)
我々の強みを活かせば、この機会を最大限に活用できる、どんな面白い戦略を生み出せるか?
西公園の持つ『自然』『広さ』『SL』といった強みと、『おしゃピク』『健康志向』などのトレンドを掛け合わせ、アイデアの激しい流れが、一気に熱を帯びた時間を創り出した。
『インスタ映えスポットを作る/ウォークゲームイベント/自然体験イベント/健康ウォーキング推進/食べ物フェス・音楽フェス開催/訪日外国人向けの観光スポット化/アウトドアブームの活用』
【ST戦略】(強み × 脅威)
この脅威が迫っているが、我々の強みを使えば、どう乗り越えられるだろう?逆にチャンスに変えられないか?
競合の活性化やアクセスの課題という脅威に対し、西公園ならではの強みで対抗する『差別化戦略』が練られた。
『おしゃピクをして若者を集める/仙台駅から西公園まで歩くイベント/青葉山公園とコラボイベント(駐車場、歩く)/子供用のスペースをつくる/ゲームできるような屋内施設/自然を利用した日影スポットや屋根のある施設をつくる/西公園までの徒歩の楽しみ方をもっと提案する』
【WO戦略】(弱み × 機会)
この機会は、我々の弱みを克服する絶好のチャンス。具体的にどうすればいいだろう?
弱みである『仙台駅から遠い』という課題を『歩くこと自体を楽しむ』という発想で逆転させるなど、弱みと機会の組み合わせは、多くの『気づき』を参加者にもたらした。
『仙台駅から西公園までのウォーキングルートを作る/地下道を作る(涼める、道できる、エレベーターつける)/地下駐車場を作る/SNSで西公園をアピール/交通の便をよくして外国人にも来てもらう/日陰にベンチや場所をつくる/健康とゴミ拾いをつなげたイベント』
【WT戦略】(弱み × 脅威)
この弱みを放置したまま、この脅威が来たら最悪だ。それを避けるための最低限の一手はなんだろう?
最も難易度の高い問いに直面したが、危機を最小限に抑えるための現実的な防衛策を練るフェーズだ。参加者たちは、最後まで未来への知恵を絞り続けた。
『(普段から)賑やかにすることで熊が来にくくする/地下鉄付近に住宅地を増やし、地域コミュニティーを活性化させてい/広い土地をエリアごとに分割して利用できるようにする/電車を利用しない人を対象とした方向けの駐車場設置/屋根のある建物をつくる/おしゃピクをして若者を集める』
濃密なブレインストーミングを終えた後、各グループによるプレゼンテーションや振り返りを経て、約2時間の第6回定例会は熱気とともに幕を閉じた。この日の参加者11名全員が回答したアンケート結果は、この日の充実度を雄弁に物語る。定例会の満足度は『とても満足』(8名)、『満足』(3名)で、驚異の満足度100%を記録。グループワークについても『とても満足』(7名)、『満足』(4名)で、同じく満足度100%を達成した。しかし、この日の真の価値は、数字だけでは測れない。公園の未来を真剣に考えた若者たちの本質的な変化は、下記に記す彼らの生きた言葉の中にある。
「初めてSWOT分析というものを行ったが、今までの自分の考えていたことが視覚化されてアイデアが出しやすかった。強み、弱み、機会、脅威の四つをそれぞれ掛け合わせて考えるクロスSWOT分析では、バラバラに出たアイデアだったものが最終的に方向性が似たものになっていて面白かった」
「強みと弱みは表裏一体ということをあらためて感じた。他の班の付箋を少し見たが、自分たちと全く違った視点を持っていて面白いなと思った」
「今回のグループワークでは、今まで話してきた西公園の知識をすこし具体的な案外に持っていけた実感があるので、やりがいを非常に感じられた」
「定例会6回までを通して、公園を良くするのはこんなに大変なことだと改めて感じた」
「弱みと脅威を組み合わせて、改善策を考えるのが難しかった。若者の普段の公園の利用について考えようとしていたが、イベントのような一時的な利用しか思いつかなかったので、工夫したい」
2025年、西公園は開園150周年を迎える。明治8年(1875年)の開園以来、この公園は仙台市民とともに歴史を紡いできた。桜まつり、ピクニック、スポーツ等、世代を超えて多くの人に愛されてきた。しかし、時代は変わる。ゲームの進化、SNSの普及、少子化、異常気象、そして競合施設の出現。西公園を取り巻く環境は、かつてないほど複雑化している。そんな中、20名を超える若者たちが、本気で西公園の未来を考えている。3C分析、SWOT分析、クロスSWOT分析といった企業が実際に用いる本格的なビジネス手法を学び、150年の歴史を持つ公園の新たな価値創造に取り組んでいる。彼らが導き出すのは、単なる若者向けの施策ではない。市場を分析し、強みと弱みを見極め、機会と脅威を把握した上で、戦略的に考え抜かれたブランディング戦略だ。その過程で、彼らは社会を自分ごととして捉える力を身につけていく。
2027年、プロジェクトが完了する時、西公園はどのような姿になっているだろうか。そして何より、このプロジェクトに関わった若者たちが、どのように成長を遂げているかに注目したい。これからも150年の歴史と向き合いながら、未来をデザインする若者たち。彼らの挑戦は、西公園を変えるだけに留まらない。仙台という街に、『若者が社会を本気で考え、社会が若者を育む』という新しい循環をもたらすことは確実だ。2025年9月20日、模造紙に貼られた色とりどりの付箋は、その第一歩を示している。

Text:Yuki Suzuki
Photo:kensuke Miura
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