Project
2026/5/13
桜の余韻がまだ街路に漂う2026年4月18日土曜日。仙台市青葉区中央市民センターの第1会議室には、これまでの定例会とは少し違う空気が流れていた。机の上に積まれているのは、ファッション誌、ライフスタイル誌、そしてカルチャーマガジン。手元に並ぶのは、ハサミとノリ、そしてまだ何も貼られていない真っ白な模造紙だ。実はこれこそが、今回の定例会の鍵を握っているのだ——。
2025年4月に始動した仙台市青葉区若者社会参画型学習推進事業『西公園ブランディングプロジェクト』は年度をまたいでついに2年目に突入。通算13回目の定例会を迎えた。集まったのは、仙台市内7大学から志を共にする26名の若者たち。そして彼らを見守るのは、今回初参加となる東北大学の西出優子教授をはじめ、宮城学院女子大学の岩田京子准教授、仙台白百合女子大学の鈴木理仁特任講師といった大学機関の面々。さらには谷田至史青葉区長、松原幸子副区長、市公園管理課の佐藤香代子係長ら行政側も顔を揃え、今回も産官学が一体となった強固なバックアップ体制が敷かれた。今回からも新たな若者も仲間に加わり、午前10時になると開会式がスタート。そしてこの日のメインテーマが告げられると、それは聞きなれない言葉の登場でもあった。
「今回のテーマはナラティブ・ムードボードの作成です!」
今回はナラティブ・ムードボードを通じて、令和7年度に若者たちが1年かけて言語化してきたブランドテーマ『若者が五感で楽しめる秘密基地』のコンセプト、『五感と自然の中でありのままの自分と向き合い、「好き」を自由に追求し、新しい自分と「動き出す力」を自らの手で創り出せること。』を1枚の紙の上に視覚化していく。しかし、これはただ写真を切り貼りして貼るのではない。"左から右へと時間が流れるストーリー"として貼っていく。これこそがナラティブ・ムードボードという手法であり、それに果敢に挑む若者の様子をぜひご覧あれ。

そもそも『ムードボード』とは、デザインの方向性や世界観を視覚的に共有するためのツールである。例えば『春』というお題に対し、桜、淡いピンク、芽吹く緑……といった写真を並べ、共通の認識を作る。しかし、この日若者たちが挑むナラティブ・ムードボードは、それとは一線を画す。決定的な違いは、そこに時間軸が存在することだ。通常のムードボードが『雰囲気の寄せ集め=静止画』だとすれば、ナラティブ・ムードボードは『左から右へとトーンが変化していく動画的な変化』を持つ。つまり、1枚の紙の中でひとつの物語が成立しているのだ。では、なぜナラティブ・ムードボードでなければならないのか。そこには3つの理由が存在する。
理由①:西公園は「ただの場所」ではなく、「感情が変化する舞台」だから。
若者たちが定義したブランドコアは、『木がある』『ベンチがある』といった公園の物理的なスペックではない。『疲れた若者がやってきて、癒やされ、夢中になり、最後は熱狂を生む』という心の変化そのものを定義したものだ。その移ろいを描くには、固定された点ではなく、変化する線(物語)が必要なのである。
理由②:抽象的な"言葉"を、"視覚的な証拠"に翻訳するため。
言葉は、人によって想像する映像がバラバラだ。これを『このトーンの質感』『この彩度の赤』といった、誰もが疑いようのない一枚のビジュアル(証拠)に翻訳する。視覚による共通言語化こそが、チームの歩調を合わせる鍵となる。
理由③:今後のデザイン制作における"絶対にブレない北極星"になるから。
デザイン制作を行う際、『なんとなくオシャレ』や『個人の好み』を基準にしてしまうと、ブランドの軸は容易にブレてしまう。明確なナラティブ・ムードボードという北極星があれば、あらゆるデザイン決定を論理的に、かつ一貫性を持って下せるようになる。
ナラティブ・ムードボードを作成するために若者の目の前に用意された模造紙は、3つのエリアに分けられた。人間が無意識に持つ『左から右へ時間の経過を感じる心理』を利用し、若者たちは1枚の模造紙の上に、西公園で繰り広げられる心の変遷を設計していく。
【左側】Chapter 1 — 静(デトックス)
『社会で疲れた若者が西公園にやってきて、一人でホッと一息つき、デトックスする時間』から生まれるイメージを視覚化する。一人の時間が流れる風景、温かいコーヒーを持つ手、木漏れ日や影、少し暗めで落ち着く色のトーン等がここでは当てはまる。
【中央】Chapter 2 — 没頭
『元気を取り戻した若者が、自分の趣味ややりたいこと(=好き)に熱中し、自ら遊びを創り出している時間』から生まれるイメージを視覚化する。本やスマホに没頭する顔、ヘッドホンで音楽を聴く姿、趣味のアイテム、自由でラフな空間等が当てはまる。
【右側】Chapter 3 — 動
『個人の熱量が周りの仲間に伝染し、新しい文化や活気が生まれていくエネルギッシュな時間』から生まれるイメージを視覚化する。仲間と笑い合う姿、熱く語る様子、青空の下でのハイタッチ、オレンジや赤などのエネルギッシュな色等が当てはまる。
『静→没頭→動』。この3段階の物語が、西公園で起こる若者の心の変化の縮図となる。若者たちは、この物語を1枚の紙に定着させていくのだ。
導入の説明を終え、7つのグループに分かれた若者たちがいよいよ手を動かし始める。ルールはシンプルだ。担当分けはせず、4人全員が『静』『没頭』『動』のストーリーを意識して目の前にある雑誌からページを切り抜いて素材を集め出す。若者たちは『静』『没頭』『動』という抽象的な言葉を、具体的な写真に翻訳する作業に没頭していった。

ここがこの日の最重要パートだ。集めた多くの切り抜きを10〜15枚にまで絞り込む作業だ。このStep2は、5つのフェーズで構成されていた。
①プレ配置
集めた40枚の写真を、模造紙の『静』『没頭』『動』のエリアに、トランプのようにバサバサと分類して置いていく。何度も並べ替えているうちに、物語として成立する流れが見えてくる。
②時間の流れの"断絶"をなくす。
模造紙を左から右へ眺めて、急に雰囲気が変わりすぎている場所(断絶)がないかを確認する。例えば、左エリアに『真っ暗な夜の森』があり、すぐ隣の中央に『カンカン照りの昼間の芝生』があると、時間がワープして見えてしまう。つまりはトーンのグラデーションをつくる時間であり、それが物語のなめらかさを生む鍵だ。
③素材のそぎ落とし— 40枚を10〜15枚へ。
目安として各エリア3〜5枚、全体で10〜15枚になるまで写真を思い切り捨てていく作業だ。判断基準はただひとつ、『ブランドコアの言葉と矛盾していないか』。令和7年度に若者たち自身が定義したコンセプトと照らし合わせ、合致しないものは模造紙の外へ。どれだけ綺麗な写真でも、言葉と矛盾するなら容赦なく外す。
④レイヤリング — プロっぽく仕上げる、最後の魔法。
裁判を生き残った少数精鋭の写真を、いよいよノリで貼っていく。ここで意識するのは、『レイヤリング』のテクニックだ。スマホのアルバムのように写真同士に白い隙間をあけて並べると、どうしても素人っぽく見える。そうではなく、写真の端と端を少し重ねて貼ることがポイントだ。
⑤発表準備 —このイメージを、一言でいうと?
最後に、完成したムードボードを一言で表現する作業に入る。これが、各グループのキャッチコピーになる。令和7年度に若者たちで定義した言葉と、目の前の具体的な写真とを、一つひとつ論理で結びつけていく作業である。
時計の針が11時35分を指す頃、各グループはそれぞれのナラティブ・ムードボードの作成を終え、1分の全体発表タイムが幕を開けた。短くも密度の高い時間の中で、若者たちは自分たちのナラティブ・ムードボードを誇らしげに掲げ、その物語を語り出す。 そこで生まれた7つのキャッチコピーは、どれも個性が際立つものだった。以下に紹介する。
>Aグループ:『ゼロイチワイワイ』

>Bグループ:『広がるワクワク』

>Cグループ:『大人の余裕クラブ』

>Dグループ:『GO OUT』

>Eグループ:『BE YOURSELF』

>Fグループ:『都会と自然の融合』

>Gグループ:『人と色』

7つのグループが、それぞれの解釈で『若者が五感で楽しめる秘密基地』をビジュアルへと翻訳していった。全グループの発表を通じて何より印象的だったのは、若者たちが『色』や『配置』といった細部にまで、明確な意図を込めていたことだ。
「左から笑顔が増えていくようにしました!」
「左から少しずつ画像を右上がりに配置して、気持ちが高まっていく様子を表現しました!」
語られたのは、単なるデザインの好みではない。写真の色調、切り抜きの傾け方、視線を誘導する配置の角度——。彼らの指先から生み出された微細なニュアンスは、すべてが『心の変化』を物語るための必然だった。これこそ抽象的な言葉が、誰もが共有可能な“視覚的証拠”へと鮮やかに翻訳された瞬間である。
第13回定例会は、年度をまたぐ通算13回目であり、同時に令和8年度の幕開けでもあった。令和7年度に若者たちは『ブランドテーマ』と『ブランドコア』を生み出した。そして令和8年度のこの日、その言葉は『視覚』へと翻訳された。これから先、その視覚はやがて『デザイン』へと展開されていく。
物語が始まり、没頭を経て、動へと変わる——。それは模造紙の上の話だけではない。西公園でも起こることであり、このプロジェクトそのものの軌跡でもあるのだ。 開園150年を迎えた西公園の次の物語。その第1ページがこの日、若者の手によって確かに視覚化された。彼らが描き出す『若者が五感で楽しめる秘密基地』が、仙台の街に姿を現す日は、もうすぐそこまで来ているのかもしれない。
>#6本格的フレームワークで西公園の未来をデザインする若者たち
>#9 150年目のアップデート。若者が導いた最終ブランドテーマとは
>#10産学官連携で挑んだ『若者が五感で楽しめる秘密基地』の定義づけ
>#11『なぜ』と『どこへ』を言葉に。西公園ブランディングで若者が描くパーパスとビジョン。
>#12 青葉区長も参戦!若者が付箋で描く西公園の提供価値。
Photo:Toshihiro oba
Text:Yuki Suzuki
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