Project
2026/7/14
梅雨空がしっとりと街を包み込む、2026年6月20日(土)。仙台市青葉区中央市民センターの第1会議室には、各テーブルに模造紙が広げられ、その上で2種類の付箋とペンが静かにその出番を待っていた—。前回の第14回定例会で完成したのは、若者たちが思考を研ぎ澄まして生み出したメインキャッチコピー。続くこの日のテーマは、その言葉に見合う『過ごし方』をリアルに体現するために必要な、”西公園の過ごし方のルール”をアップデートすることだ。
2025年4月に始動した、仙台市青葉区若者社会参画型学習推進事業『西公園ブランディングプロジェクト』。通算15回目を迎えたこの日の定例会には、仙台市内の大学から24名の若者たちが集結した。そして今回彼らの挑戦を現場で支えてくれるのは、松本大教授(放送大学)、西出優子教授(東北大学)、岩田京子准教授(宮城学院女子大学)、鈴木理仁特任講師(仙台白百合女子大学)の計4名の大学関係者。さらに、本プロジェクトのアドバイザーを務める株式会社BLUE SODA代表取締役・相澤総一郎氏や仙台市建設局公園管理課の大宮裕樹氏も参戦し、産学官が密に連携する盤石の布陣が敷かれていた。
午前10時の開会とともにアナウンスされたこの日のテーマは『空間・居場所設計』。 そして、その根底に掲げられたのは”公園の当たり前をリデザインする”という大胆な合言葉だった。『○○禁止看板』や『画一的なベンチ』といった、私たちが無意識に受け入れている公園の常識を若者の視点でつくり変えていく。そのようなこれからの西公園へワクワクとした期待感が高まるクリエイティブなワークが幕を開けた。

ワークへと突入する前に、まずは前回のクリエイティブな成果を全員でインストールする時間が設けられた。第14回例例会で若者たちがつくり上げたのは、まだ西公園を知らない“外側”にいる若者の心を撃ち抜くための、鮮烈な言葉たちだ。決定した統合メインキャッチコピーは以下の通りだ。
『今日、時間見なかったな。――再スタートは、いつも西公園だった。』
さらに、ブランドの人格(トーン&ボイス)として設定されたのは、『25歳のカルチャーを愛するニュートラルな先輩』という具体的なペルソナ。この世界観をベースに、西公園で起こる若者の心のグラデーションを3つのストーリー(Chapter)に落とし込んだ公式キャッチコピーもすでに息づいている。
>【静】
「はぁ〜、天国。スマホを伏せたら、やっと息が吸えた。」
>【没頭】
「誰の正解も、いらない。私の『好き』に、ただいま。」
>【動】
「あったけぇ時間を、シェアハピ。――この熱のまま、街へ飛び出そう。」
これらは、これからさらに紡がれていくプロジェクトのいわば言葉のコンパスだ。今後進んでいく空間デザインや居場所づくりはすべて、彼らが手にしたこの強力な言葉の武器を起点に動き出していく。
ファシリテーターからこの日の合言葉として掲げたのは、『公園の当たり前をリデザインする。』という一言だった。どれだけ魅力的なメインキャッチコピーを並べたところで、実際に若者が過ごす場所に『◯◯禁止』の看板が乱立するようなこれまで通りのルールが残っていては何も変化が生まれない。かえって若者たちはメインキャッチコピーと現実のギャップを瞬時に見抜いて離れていく可能性すら生まれてしまうだろう。言葉から想像する理想と空間という現実。その間に一貫性を通すこと。それこそがこの日のミッションだった。ここで重要なのは、ハード(設備)には1ミリも手を加えないということ。 何千万円もの予算を投じてベンチを買い替えたり、新しいハコモノを建てたりするわけではない。そうではなく、その空間に横たわる過ごし方の前提を書き換えるのだ。
そこで若者たちが挑むのが、空間を支配する『空気感の法律(作法)』を上書きするというアプローチ。物理的な形は今のまま。けれど、そこを流れる空気感のルールを変えるだけで、見慣れた西公園は世界に一つだけの『若者が五感で楽しめる秘密基地』へと生まれ変わる。これこそが、この日の真骨頂である“ルールハック”だ。この日、若者たちは西公園の心の変化のうち【静】と【没頭】という2つのChapterの『空気感の法律(作法)』をつくり出していく。(エネルギッシュな【動】は、第16回のテーマとしている。)
最初のワークは、Chapter 1【静】――若者が自然でデトックスするための空間づくりだ。SNSの通知や人間関係のしがらみに疲れ果てた若者が西公園に逃げ込んできたとき、心をゼロに戻してあげるための空気感をデザインする。ここでは模造紙の左半分を使い、以下3つのステップで進行した。
STEP 1|脳内ノイズを、可視化する。
まずは付箋に若者が日常で抱えているストレスや脳内ノイズを書き出していく。『LINEの即レス圧』、『SNSで他人と比べてしまう焦り』、『就活のプレッシャー』『(大学講義の)1限』、『卒論』――。各テーブルには、現代の若者が抱えるリアルな本音が次々と貼り出されていった。
STEP 2|ノイズを切断する、過ごし方の作法を考える。
次に、貼り出されたノイズを西公園の自然(五感)を使って心地よく切断するための『過ごし方の作法』をチームでセッションする。ここで大切なのは、既存の『◯◯禁止』といったネガティブな禁止ルールに逃げないこと。あくまでブランドのペルソナである“25歳のカルチャー好きな先輩”の佇まいを意識し、優しく肯定的なアプローチを模索していく。
STEP 3|【静】の空間法律を、確定する。
最後に、出てきた作法の中から最もブランドに一貫性のあるものを1つに絞り込み、赤マッキーで模造紙の最下部にデカデカと直書きする。これが、各チームが生み出した【静】の絶対法律となる。

5分間の休憩を挟み、後半はChapter 2【没頭】――自分の好きに没頭するための空間づくりへ。自分の大好きな本やカメラ、音楽の世界に、誰の目も誰の正解も気にせず深く引きこもれる空間をデザインする。ここでは模造紙の右半分を使い、こちらも以下3つのステップで進行した。
STEP 1|カルチャーを、乱打する。
『もし他人の目を1ミリも気にしなくていいなら、公園で1人でやりたい大好きな趣味・カルチャー』を問いとして付箋に書き出していく。『文庫本のイッキ読み』、『写ルンですで撮影』、『大声で歌う』、『大の字で寝る』、『楽器を弾く』、『踊る』――。若者たちの”好き”が、堰を切ったように溢れ出した。
STEP 2|趣味を守る、結界のルールを考える。
次に、その趣味やカルチャーを周囲の視線からカモフラージュし、そっと守るための『空気感のルール』をディスカッションする。誰がどのような世界に没頭していても決してジロジロ見たり、評価の目を向けたりはしない。そんな互いのインナースペースを不可侵のものとして尊重し合うための、粋なマナーを探っていく。
STEP 3|【没頭】の空間法律を、確定する。
そして【静】と同様、アイデアを統合・洗練させ、模造紙の右側最下部に赤マッキーで【没頭】の絶対法律を直書きする。

時計の針が11時35分を指す頃、各グループの代表者による全体発表が幕を開けた。1グループあたりの持ち時間は1分と短い。だが、そこに並んだのは、若者たちの感性が爆発した実にユニークな”空間法律”の数々だった。今回7つのチームが生み出した、【静】と【没頭】それぞれの絶対法律を紹介していこう。
>Aグループ
【静】面白い雲を見つけるべし
【没頭】タイムテーブルを見るべし
>Bグループ
【静】西公園では現実を考えず、脳みそを空っぽにすべし 〜ドレスコードはダル着〜
【没頭】帰るとき全て忘れればOK!! 全てをさらけだすべし 〜人は人、自分は自分〜
>Cグループ
【静】スマホを使用できない時間を決めてから入る。
【没頭】静かに距離を保つ。
>Dグループ
【静】文字から解放されよう。
【没頭】スペースを分けよう。
>Eグループ
【静】このエリアでは会話すべし。
【没頭】後ろに立たない!
>Fグループ
【静】時間の確認は設置してある時計・時刻表が便利♪
【没頭】自分のしたいことに集中しよう。気になっても見守ろう♪
>Gグループ
【静】自然を楽しみながら、とりあえず寝てみる。
【没頭】おかしい事を、日常に。

7つのチームが叩きつけた14の空間法律は、『肯定』や『誘導』でできている点に共通項があった。よくありがちな冷たく感じられることのある公園ルールを、若者ならではの感性で心地よい”作法”へとリデザインしてみせたのだ。
定例会後のアンケートにもその手応えがそのまま表れていた。企画会議全体について『とても満足』が17名、『満足』が5名。グループワークについては『とても満足』が19名と、参加者の高い熱中度がうかがえる。自由記述には、若者たちの内面で起きた変化が、率直な言葉で綴られていた。
「否定文ではなく、肯定文でルールを作る発想が新鮮だった。」
「公の場で”静”をつくるという発想が学びになった。」
「無駄をあえて作ることの重要性に気づいた。」
なかでも印象的なのは、ワークを通じて若者たち自身の【静】への意識が変わったという声だ。
「ストレスは一度忘れるのも良いと気づいた。」
「外でリラックスを実践したいと思った。」
「自分を見直し、計画的にリラックスしようと思えた。」
西公園の空間を設計する時間が、若者たち自身の暮らしを見つめ直すきっかけにもなっていたことがアンケート結果から伺うことができる。
第15回定例会は、プロジェクトのフェーズが“言葉”から“空間”へと鮮やかに躍進した一日となった。2025年度に『ブランドコア』を獲得し、前回はそれを『メインキャッチコピー』という言葉へと研ぎ澄ませた若者たち。そして今回、その言葉はついに彼らが実際に過ごすためのリアルな居場所のルールへと姿を変えた。つまり、公園の当たり前を若者たちは自分たちのアイデアで完全にハックし始めている。元々ある空間も、これまでそこにあった看板も、何ひとつ物理的には変えていない。それでも、彼らが模造紙に叩きつけた14の“空気感の法律(作法)”は、西公園を確かに『若者が五感で楽しめる秘密基地』へと変容させ始めている。
本プロジェクトの物語は次なるChapter【動】へと続いていく。 静かな自然でデトックスし、自分の好きにどこまでも没頭した若者たちが、今度はその熱を仲間と分かち合い街へとダイブしていく番だ。言葉が居場所になり、居場所が文化になる。 その美しい瞬間が訪れるまで、若者たちによるどこまでもエキサイティングな挑戦はまだまだ終わらない。
>#6本格的フレームワークで西公園の未来をデザインする若者たち
>#9 150年目のアップデート。若者が導いた最終ブランドテーマとは
>#10産学官連携で挑んだ『若者が五感で楽しめる秘密基地』の定義づけ
>#11『なぜ』と『どこへ』を言葉に。西公園ブランディングで若者が描くパーパスとビジョン。
>#12 青葉区長も参戦!若者が付箋で描く西公園の提供価値。
>#13 言葉が"視覚"に変わる日。若者たちが挑むナラティブ・ムードボード。
>#14 若者が挑む言葉の戦略。8チームが生み出した“鋭い矢”とは。
Photo:Toshihiro oba
Text:Yuki Suzuki
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