Project
2026/6/10
新緑が街路樹を鮮やかに彩る2026年5月23日土曜日の午前、仙台市青葉区中央市民センターの第1会議室には各テーブルに模造紙や色とりどりの付箋が整然と並べられていた。プロジェクターに映し出されているのは、前回の定例会で若者たちが『若者が五感で楽しめる秘密基地』というブランドコアをビジュアル化した7枚のナラティブ・ムードボードだ。そしてこの日、若者らに課されたテーマは、西公園に興味を持たない“外側の若者”の心を、たった一行で振り向かせるための『メインキャッチコピー』を創り出すことであった。
2025年4月に始動した、仙台市青葉区若者社会参画型学習推進事業『西公園ブランディングプロジェクト』。年度をまたぎ、通算14回目を迎えたこの日の定例会には、仙台市内7つの大学から約30名の若者たちが集結した。この日も新たなメンバーが加わり会議室は熱気に包まれている。また、本日も松本大教授(放送大学)、西出優子教授(東北大学)、梅岡恒治講師(東北文化学園大学)、岩田京子准教授(宮城学院女子大学)、鈴木理仁特任講師(仙台白百合女子大学)の5名の大学関係者が参加。プロジェクトアドバイザーを務める株式会社BLUE SODAも顔を揃え、今回も強固な産学官連携の布陣が敷かれた。午前10時になると、開会式とともに、この日のメインテーマが告げられる。
「今回のテーマは、『言葉の戦略』です!」
前回、ナラティブ・ムードボードによってビジュアルへと翻訳された世界観へいよいよ”言葉の武器”を吹き込んでいく。目指すゴールは、西公園にまだ関心のない若者を一瞬で惹きつける『メインキャッチコピー』の創出であり、本記事ではその新たな挑戦へ立ち向かう若者の様子を伝えていく。

ワークショップの幕開けに、まずはこの日のマインドセットを整える時間が設けられた。ファシリテーターが若者たちに投げかけたのは、ある本質的な問いだ。これまで1年間をかけて創り上げてきた『ブランドコア』と、今日この場所で新たに創出しようとしている『メインキャッチコピー』。同じ言葉であってもこれらは一体何が違うのだろうか。 まず、ブランドコアはプロジェクトの"憲法"だ。 パーパス、ビジョン、コンセプトという形で結晶化された『若者が五感で楽しめる秘密基地』という定義は、内側の関係者が迷わないためのロジック。客観的で、丁寧で、正しい言葉である。対して、メインキャッチコピーは若者の心を撃ち抜く"矢"だ。 届ける相手は西公園に興味のない外側の若者たち。「今週末、西公園に行こう!」と思わせるための、感情的で、直感的で、刺さる言葉である。例えるなら、スマートフォンの『仕様書』と『テレビCMの1行』のような違い。『超広角レンズ搭載、バッテリー4000mAh、最新CPU搭載』と書かれた仕様書は、スマートフォン開発チームにとっては絶対にブレてはいけない正しい定義だ。しかし、それを一般の人が見ても「なんか難しそう。」と通り過ぎてしまう。そこで必要になるのが、「一瞬で、大切な人のプロになる。」というような人々の感情に刺さるための言葉である。つまり、「伝わらないものは、ないものと同じ。」どんなに素晴らしい理想の秘密基地を描いていても、発信する言葉が『緑豊かな憩いの場』『ゴミのポイ捨て禁止の場所』のような冷たい言葉だったら現代の若者の心には届かない。届かないということは、"世の中にとってないもの"と同じになってしまう。だからこそこの日、若者たちはグループワークを通じて、若者にグサッと突き刺さる『鋭い矢』、つまりメインキャッチコピーを創出する必要があるのだ。そのために若者たちは、2つのワークショップに取り組んだ。
最初に若者たちが取り組んだのは、一見奇妙にも思える問いだった。
「西公園を一人の人間に例えるなら、どんな人物だろうか?」
なぜ、いきなり擬人化するのか。目的はただ一つ、チーム全員の『言葉の判断基準』を揃えるためだ。 いきなりキャッチコピーを考えても人によって言葉の口調や雰囲気はバラバラになってしまう。それではブランドの世界観そのものが崩れてしまう。だからこそまずは西公園を『一人の人間』として描き出し、この人間が発する言葉として考えだすことで、参加者全員の中で絶対的な判断基準を作る。これがこのワーク➀の狙いだ。 ここで設定された人物像は、『20代半ばの、一番心地よく寄り添ってくれる、カルチャー好きな先輩』。映画、音楽、アニメ、ゲームといったカルチャーを愛し、若者たちの価値観やライフスタイルにそっと並走してくれる、そんな先輩像が出発点となった。そしてこのワーク➀は、3つのステップで進められた。
STEP 1|西公園という人物像を、可視化する。
リーダーが模造紙の左半分に人物のシルエットを大きく描き、各自が付箋に『外見・持ち物・性格』を書き出し付箋に貼り出していった。
STEP 2|その先輩の"言葉"を書き起こす。
「その先輩なら、疲れた若者にどんな距離感で、どんなリアルな口調で接するか?」をグループ内で話し合い、セリフとして書き起こす作業を行った。
STEP 3|ブランドの純度を守る、"NG"の壁を築き上げる。
ブランドの純度を守るため、『その先輩が絶対に言わない態度や言葉』を数多く弾き出した。例えると、お堅い言葉、同調圧力、SNSの承認欲求に媚びた態度、安易な若者言葉等—。これらはすべて、西公園という“先輩”の世界観を壊すノイズとして排除する必要があるためである。

5分間の休憩を挟み、いよいよこの日の核心へと突入する。 先ほど解像度を上げた『西公園という先輩』を絶対的な物差しにしながら、ついにメインキャッチコピーを創り出すフェーズとなる。ここでも若者たちは3つのステップを駆け抜けることになる。
STEP 1|感情や言葉を吐き出す付箋の乱打。
前回創り上げたナラティブ・ムードボードの時間軸(静・没頭・動)に沿って、3色の付箋を使い分けながら作業を行った。それぞれの情景で『若者が思わず呟く本音』や『西公園という先輩がかけてくれる言葉』をとにかく数多く貼り出していく作業だ。 ここでの鉄則は、いきなり『デトックス』や『自由』といったありきたりで綺麗な単語に逃げないこと。まずは情景が1本の映画のように浮かび上がる“生々しいロングセリフ”として感情を吐き出し、その中から本当に光る原石を削り出していくのだ。
STEP 2|ベスト・オブ・キラーフレーズの選出。
模造紙いっぱいに埋め尽くされた大量の付箋から、チームの心が最も激しく動いたキラーフレーズを、3つの時間軸(静・没頭・動)からそれぞれ1枚ずつ厳選。リアルな長文のセリフと、エッジの効いた短いワード。その両方をセットにしながら、絶対に妥協できない3枚が選び抜かれた。
STEP 3|1行の言葉に命を吹き込む『究極の統合』。
ここがこの日最大の山場だ。3つの時間軸(静・没頭・動)のグラデーションをすべて内包し、西公園が若者に与えてくれる本当の価値を伝える『メインキャッチコピー(1行)』へと昇華させる。どのチームも限界まで脳に汗をかき、悩み抜きながら、自分たちだけの決定的な1行をひねり出していった。

時計の針が11時30分を指す頃、各グループはセッションを終え、いよいよ全体発表の時間が幕を開けた。持ち時間は1グループあたり1分。 熱量も高まりきった空気感の中、若者たちは自分たちの手で研ぎ澄ましたメインキャッチコピーを次々とアウトプットしていく。そこに現れたのは、若者たちの生々しい感性が驚くほど多様な姿で結晶化した、8つの全く異なる言葉たちだった。
ここからは8つのチームが生み出した魂のメインキャッチコピーを一挙に紹介していこう。
>Aグループ:『me time share time』

>Bグループ:『再スタートはいつも西公園(ココ)だった』

>Cグループ:『今日、時間見なかったな。』

>Dグループ:『いつでも来てね 自然があなたをいやすから』

>Eグループ:『はぁ〜 天国 WWW(若者 ワクワク WEST PARK)』

>Fグループ:『ホッとできるこの場所で、明日は何する?』

>Gグループ:『・・・あ、時間忘れてた』

>Hグループ:『あったけぇ時間をシェアハピ!!』

定例会の最後に若者へ行なったアンケートには、その熱量がそのまま表れていた。企画会議全体について『とても満足』が25名、『満足』が2名と、ほぼ全員が高い満足度を示す結果に。グループワークに至っては、『とても満足』が25名と、参加者の熱中度の高さが浮かび上がる。自由記述には、若者たちの内面で起きた変化が、下記のように率直な言葉で綴られていた。
「擬人化を出発点にする手法に驚いた。」
「言葉ひとつでイメージが変わると実感した。」
「キャッチコピーへの苦手意識が減った。」
「印象から言葉を考える力がついた。」
さらに胸を打つのは、「西公園を身近に感じるようになった。」「公園への認識が生活の一部へと変化した。」という声だ。言葉を研ぎ澄ますというワークを通じて、若者たちと西公園との心理的距離も近くなり、単なる街路樹のある空間だった西公園は、彼らにとって『愛着のある西公園』へと変わり始めていた―。
第14回定例会は視覚から言葉へとブランディングにおける戦略設計が新たなフェーズへと進んだ日だった。令和7年度に若者たちは『ブランドコア』を獲得し、令和8年度の前回はそれを『視覚』へと翻訳した。そして今回、それらは外側の若者へと向けられた『鋭い矢(メインキャッチコピー)』として研ぎ澄まされていった。
物語が深まっていくにつれて、若者たちの目線もまた一段と遠く、まだ見ぬ仲間たちの方へと向かい始めている。西公園に興味を持たない若者たちの心を、彼らが紡いだ言葉はどこまで動かせるのだろうか。模造紙の上から生み出された”鋭い矢”がいつかストリートを駆け巡り、外側の若者の足を西公園へと向かわせるその日まで、西公園ブランディングプロジェクトに参加する若者たちの挑戦はまだまだ続いていく—。
>#6本格的フレームワークで西公園の未来をデザインする若者たち
>#9 150年目のアップデート。若者が導いた最終ブランドテーマとは
>#10産学官連携で挑んだ『若者が五感で楽しめる秘密基地』の定義づけ
>#11『なぜ』と『どこへ』を言葉に。西公園ブランディングで若者が描くパーパスとビジョン。
>#12 青葉区長も参戦!若者が付箋で描く西公園の提供価値。
>#13 言葉が"視覚"に変わる日。若者たちが挑むナラティブ・ムードボード。
Photo:Toshihiro oba
Text:Yuki Suzuki
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